第一話
難しい……。
早くほかの人を出したいです。
目を開けると、そこは深い森の中だった。
木々の葉が重なり、空を見ることはできないが、完全に真っ暗でないことからまだ日は出ているのだろう。
周囲には今のところ危険は無いようだ。残念!
とりあえず自分の体を見てみる。
身長や体つきは変化していない。
服装は……布の服に旅人のマント、革の靴といったところかな? どれもあまり上等なものではないのだろう、ごわごわして着心地はよくない。
そして腰には……おお! 剣だ!
俺の腰にはシンプルな剣が吊られていた。
たぶん、これもそんなに上等なものではないのだろう。
けどそんなこと関係ない!
日本じゃ持ち歩くと確実に銃刀法に引っかかる剣に、男ならテンションが上がらない訳がない!
すらっと剣を抜いてみる。
思ったより重い。
剣道をしていたとき、日本刀なら何度か振るったこともあるが、それよりもこっちの方が重いようだ。
こんなの本当に振りまわせるのか?
とりあえず、剣道と同じよう中段に構えて、何度か素振りをしてみる。
……振れなくもない……が、やっぱり大分感覚が違う。
暇をみては振って、慣れておかないと、いざというとき生死を分けそうだ。
他の俺の持ち物は……、ズタ袋一つだけか。
中を漁ると、出てきたのは巾着のような布の子袋とこの大陸全体を大雑把に描いた地図、ナイフ、布数枚、あとは干し肉とパンが少し。
子袋に入っていたのは数枚の硬貨。
これで俺の持ち物は全てだ。
さて、荷物確認も終わったところで、これからの行動方針を決めよう。
とりあえず、選ぶ職業は冒険者一択!
スリルあふれる冒険が俺を待っているぜ!
では、冒険者になるにはどうすればいいのか?
これは、町にあるギルドに登録すればいい。
お手軽だ。
というわけで、町を目指そう。
俺は地図を広げる。
まず左上に、この世界の文字で「カウサス」と書かれている。これはこの世界の名前であり、大陸の名前である。他の大陸はまだ発見されていないらしい。
そして描かれている大陸の形は少し歪なラグビーボールを少し左に傾け置いたような形。
その大陸を北から中央まで走る山脈が「カウサス山脈」。国ごとに呼び方が微妙に違うらしいが、これが一番多いようだ。
そして山脈を挟んで東西に大きな国一つずつ。西が「クルノダ」で、東が「アゼルバイ」。どちらも王国だ。そしてその周囲にいくつかの属国、都市国家。大陸北には周囲を山脈に囲まれた国「アルニア」。カウサス山脈を神域とする宗教国家らしい。大陸南は大きな国がなく、小国が乱立している。
俺が今いるのは、クルノダ側のカウサス山脈麓の大森林地帯。
西に向かえば町がある。それはいい。
問題は、
に・し・は・ど・っ・ち・だ!
空が見えないから太陽や星で方角を図れない。
山が見えれば逆に行けばいいんだが、それも見えない。
サバイバルは得意だが、ここは日本の山じゃない。
こんな装備では、恐らく数日でアウトだろう。
それでもあえてサバイバルを敢行するのも面白そうだけど!
鎮まれ俺!
ふー。
うん。
磁石もないし……。
あれ?
既に詰んでね?
ゾクゾクッ!
いやいや興奮してる場合じゃない。
ああでも……ん?
何かが近づいて来ている。
人なら千載一遇のチャンスだが、野獣だと今の装備じゃ……厳しいなあ、おい!
魔獣なんてのもいるし、それだったらもうどうしようもないな!
だから鎮まれって俺!
さっきからアクセルふみっぱじゃねえか!
……いや、これが平常運転だったような気もする。
こほん。
んー、さすがに気配で人か野獣かかなんて分かんないしなー。
とりあえずまっすぐこっちに向かっているみたいだし、隠れて様子を見よう。
俺は茂みの中に潜りこみ、静かにそれが来るのを待ち構えた。