表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグ

 初投稿です。

 拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

 俺、江渡進えどすすむはドМである。

 ドМと言っても、別に人から虐められることが好きというわけではない。

 どちらかというと嫌いである。

 しかし、危険、不利、劣勢といった状況が、たまらなく好きだ。

 自分を限界まで追い込むことに、たまらなく快感を感じる。

 

 今も夏休みの恒例である、山籠りで限界まで、それこそ生死の境まで自分を追い込んできたところだ。

 中学から始めて、最初はナイフ、マッチ、保存食、テント等、色々持ちこんでいたが、毎年少しずつ物品を減らし、高三になる今年、とうとう身一つの山籠りを決行した。

 唯一持ちこんだ物は、ボロボロになった最初に来ていた服と、今着ている着替えだけ。

 予想通り、今年の山籠りは非常に辛いものだった。

 あそこで熊を倒せなければ、飢えか熊に食われて死んでいただろう。

 ……はあ。

 やべ、思い出しただけで興奮してきた。


 そんな俺が山を出たところで、それは起きた。

 

 踏み出した足が地面に着かない。

 それどころか体が動かない。

 周囲の音も全て消えた。

 そして頭の中に聞いたことがない声が響く。



≪アナウンス。特殊条件ナンバー99クリア。個体情報スキャン・・・・・・完了。個体情報の保存・・・・・・完了。世界名「地球」からのデータ及び履歴の削除・・・・・・完了≫



 変な声が聞こえなくなった瞬間、目の前が真っ暗になり地面の感触が消える。

 そして今度は強烈な光に包まれ、気付くと何もない空間に立っていた。

 いきなりの出来事にしばらく思考と体が硬直していたが、俺は混乱を無理やり収め周囲を観察する。

 広さは二十畳ほどだろうか、光源もないのに明るく、床も壁も天井も真っ白な空間だ。

 体を少し動かしてみる。

 特に異常は無い。

 そんな感じにいろいろチェックしていると、何もない空間から湧き出るように女性が現れた。


 その女性を見た瞬間、俺は驚愕した。

 一言で表すなら、完成された美。

 顔の造形、プロポーション、服装など、一つ一つを挙げても大変美しいが、それが合わさることで一つの芸術となり、神々しいオーラを発している。

 俺はその女性の容姿に圧倒されつつ、じっと観察していると、女性がその美しい口を開く。


「ふふ、そんなに見つめられると照れるわね。苦労してエディトした甲斐があったわ。それで、君が江渡進ね?」

 

 彼女の言葉が、完全に素通りしていた俺だったが、自分の名前が出たことで、ようやく我に返った。


「そうですけど……あなたは?」


「私は……んー、そうねえ。君達からしたら神とか、創造主とかにあたるかしら」


「神? 創造主?」


 俺は再び混乱した。確かに神々しい容姿ではあるが、おいそれと信じられることではない。


「そうよ。と言っても、私自身が君達を造ったわけではないの。私は監視や管理が仕事」


 神は分業制のようだ。


「いきなりこんな所に来て混乱しているでしょうけど、とりあえず黙って話を聞いてちょうだい。君は私たちに選ばれてしまった。これか君に「地球」とは別の世界にいってもらうわ」


「は? 別の世界?」


 あまりのことに、思わず口を挟んでしまった。

 自称神は少し眉をしかめたが、そのまま話を続けた。


「そうよ、別の世界。魔法があり、「地球」にはいないとても危険な生き物がいて、高い武力を持つ「冒険者」達が市民権を得ている世界。君の住んでいた「日本」と比べ物にならないくらい危険n「危険なのか!!??」……はあ?」


「ごほん。すみません。続けてください」

 

 まずい。

 あまりの興奮でまた口を挟んでしまった。


「……そうよ、とっても危険な世界。……どうしてそんなに嬉しそうなの?」


 気付くと、さっきまでの混乱はどこへやら、俺の頬はどんどん緩んでいった。

 仕方ないんだって。

 だって危険がいっぱいなんだぜ?

 今までの生ぬるい危険なんかとは比べ物にならないんだぜ?

 わざわざ山籠りなんてしなくても、街で態とヤクザ風なおっさんとぶつからなくても、駅前で座り込んでいる邪魔なヤンキー達に、正義感溢れる少年の演技して注意しなくても、危険が向こうからやって来るんだぜ???

 みなぎってきたーーー!!!!!

 

 っと、「神」さんが気味悪そうにこっちを見ている。

 沈まれ、沈まれ俺のせいへき


「お見苦しいものをお見せしました。ちょっと危険という世界を想像もうそうして、わくわくしてしまいまして」


「……ああ、君の該当した特殊条件はナンバー99だったわね」


「特殊条件のナンバー99? そういえば、ここに来る前に聞こえた声でもその単語が出てきてたような……」


「あ……まあ、これぐらいならいいか。特殊条件とは、私たちが君たちAI……じゃなかった、人間の中から件の世界へ向かわせるものを選ぶための条件よ。かなり数があるけど、今回君が該当したナンバー99は、「当時の能力では打開が非常に困難である命の危機を、十度乗り越えること」ね。かなり特殊な条件よ」


 命の危機? どれのことだろうか。

 今回の山籠りも命の危機は何回も感じたし、これまでだって数え切れないくらい、命の危機は感じてきた。

 ああ、「これは詰んだ」と思った回数を数えると確かに十くらいになるか。

 ちょ、思い出したら、せっかく沈めた俺のせいへきが!!


「……普通のA……人間では一生で一回でもあれば奇跡のように設定されているはずなんだけれど……。行動の記録を見る限り、その「命の危機」も自分から飛び込んだようね。「日本」で、さらに君の歳で打開困難な命の危機を十度なんて、異常に不運な設定の子か、君みたいに自ら飛び込んでいかない限りありえないわ」


 「神」さんはいきなり手元に現れた、携帯型情報端末のようなものを見ながら言った。


「ここまで徹底していると、もはや病気ね。まあその反応だと、別の世界に行くことに抵抗はあまりないようね。まあ抵抗があったとしても、今さら無駄なんだけど。既に君がいたという情報は「地球」から抹消されているわ。様々な記録から、人々の記憶までね」


「はあ!!??」


 あまりの出来事ですっかり忘れていたが、元の世界には家族も、友人も……少ないがいた。それと二度と会えないのはちょっと……。


「色々言いたいことはあるだろうけれど、さっきも言ったようにもう無駄よ。会いたい人もいるだろうけれど、もう君のことは覚えていないわ」


「……どうしても無理なんですか?」


「無理ね、諦めなさい。さて、話を進めていいかしら?」


 これは本当に無理そうだな。っく! 絶望するにはまだ早い! まだ危険な世界パラダイスの話が残っている!


「いいみたいね。君にはさっき言った世界で生活してもらいます。手段はお好きなように。冒険者、商人、貴族、農民、奴隷、何でもいいわ。生活が辛くて自殺するのも止めはしない。君たちに私たちから与えられるのは少しのお金と最低限の物品、向こうでの一般常識、そして一つの特殊な能力だけよ」


「特殊な能力?」


「そう。元の世界で、君がとってきた行動に相応しい能力が与えられるはずよ。君の場合は……「不利な状況になればなるほど能力が上がる」か。まさに君にぴったりの能力ね。私の話は以上よ。何か質問はある?」


「貰えるものを一切断るってできますか?」


 あ、「神」さん絶句している。

 そりゃそうか。


「……できないわ」


 残念。一般常識もなく、言葉も通じない世界で生きて行くというのも面白いと思ったんだが……。


「じゃあ、魔法って俺でも使えるようになりますか」


 「神」さんが、普通の質問にほっとしてる。


「ええ使えるわ。といっても最初は魔力とかその技量は低いから、努力次第といったところかしら。あの世界でも、高い技量の魔法使いは少ないから、使えなくてもそれほど不自然ではないけれど。ああ、与えられる一般常識の中に、向こうでの生活に必須の魔法があるはずだから、まず試してみなさい」


 おお、魔法が使えるのか。それは楽しみだ。けど、生活に必須の魔法か……便利過ぎるのもつまらんな。

 

「質問はもうない?」


 後は、与えられる一般常識の中に含まれていそうなものばかりだな。

 俺小さく頷いた。


「そう、じゃあ今から君を向こうへ送るわ。場所は人目に着かない森か草原。一応近くに町か村があるはずだけど、たどり着くかつかないか、向かうか向かわないかは君次第ね。ではさようなら」


 「神」さんがそう言って、パンと手を一つ鳴らすと、俺の体が光り出す。

 徐々に足元から体が消えてゆき、とうとう俺の全てが消えた。

 消える間際、「神」さんの顔をみると、一仕事終わったと気の抜けた顔だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ