七月一日【file. 2】
「公、急いで!時間がないの!」
「いや、そもそも僕ら鎮圧部隊じゃないのに……」
「大和霊総合センターにも緊急要請が来たの!
民間人も巻き込まれてるんだから放っておけるわけないでしょ!」
「そうだけど……」
―――あの日、私は本気でそう信じていた。
正義が、この何気ない日常を守る盾になると。
センターの制服に着替えた私達は夜の街へと飛び出していた。
公を急かして、十字路までの道を辿る。
近づくごとに徐々に足と感じる霊気が重くなる。
きっとこの日から始まっていたのだと思う。
私達の死へのカウントダウンが。
「あ、ここだ。……?でも、周りに人が五人ほどしかいない……?」
「倒れてる……!私助けに行ってくる!」
「わかった。僕は少し辺りの様子を見てくるよ」
夏の熱気が急に冷え込んだその場所、渋谷区の十字路にて私と公は佇んでいた。
傍には、倒れたニ人の女性に声を掛けている野次馬三人がいる。
予言に書かれていた程酷い事故は起きていない。
私は公と別れ、その女性達に声をかけることにした。
「あの、大丈夫ですか?」
「貴女は……?」
「あ、えっと、私は大和霊総合センターでバイトをしている者です。何かありましたか?」
名刺を差し出し、ニコリと微笑む。
「私達……この近くの高校に通ってて。
先程までは二人も起きていたんですけど、急に藻掻き出して……」
「……!まさか……。三人ともすぐにこの場から離れて下さい!」
「え、」
「早く……!急いで!」
傍にいた野次馬の高校生たちを奥へ避難させ、私は転がっている二人に近づいた。
この世にいる異能力者は二種類存在する。
一つは、先天的に私や公の様に物怪を人間の身体に寄生させて戦う異能力者。
二つ目は後天的に無理やり人間の身体に霊や物怪を寄生させられた異能力者。
二つ目の後天的な異能力者が私達のような物怪や霊ではなく、人間の自我が保たれた寄生体は影厄と呼ばれ、逆に物怪や霊の魂の方が強くのこった場合は厄霊と呼ばれる。
私達が普段戦っているのは生身の霊ではなく、霊が入り込んだ人間……厄霊なのだ。
もし目の前の少女が「厄霊」に変わりつつあるのだとしたら、私は彼女をこの手で今殺さなければならない。
アスファルトの熱気が、まるで氷水をかけられたように引いていく。
救いを求める長髪の少女の指先が、不自然な角度でピクピクと跳ねた。
……それは、人間が関節を動かす時のリズムではなかった。
「うむ、動きやすいな。これでやっと人間の肺を食べられる」
「っ……!公!」
「任せて!異能力、百夢ノ六。拒絶」
公の両足が黒く染まっていた。
異能力者の系統は六種類。
守護を得意とする守護系。
物怪や霊を憑依させて本来の力を発揮する攻撃特化だが、最弱の憑依系。
獣人化等ができる動物系。
この世に一番数がいるとされれ怨霊系。
カウンター型を得意とする地縛系。
そして、この世で一番最強の悪霊系。
私は憑依系、公は地縛系だ。
それも私は、未完の憑依系。
異端児何て呼ばれてはいるが、まだ本来の力は発揮した事がない。
いや、出来ないのだ。
身体が耐えられないから。
公は少女の足元にサークルを作り、彼女の攻撃と霊気を吸収した。
「皐月、トドメ刺せる?」
「……っ」
「……皐月?」
呼吸が浅くなり、目の前が霞む。 本来、寄生体を鎮圧する人間として抱いてはいけない感情を私は胸に持っている。
誰も死なせたくない……。
でも、私にはその力がない……。
だから二年前も、彼女を救えなかったのだ。
折角公がサークル内に厄霊を閉じ込めてくれていると言うのに、私は拳を振るうことが出来ない。
「……もう、目の前で人が死ぬのは見たくないっ……」
「皐月……」
はぁっ……、はぁっ……と浅い呼吸を繰り返していると、公の影からとてつもない霊気を持った男が現れた。
肌が凍り、もっと息がしづらくなる。
心音も早く鳴り、冷や汗が止まらない。
「おいおい、おこちゃま達よぉ。何してんだ、お前ら?」
「……!G.H.O.の……!」
「第ニ鎮圧部隊、隊員・春日智成だ。お前ら、こんな所で何をしている」




