第2話 入学式で聖属性がバレた件
国立魔法学院の正門は、朝から騒がしかった。
石畳の上を進む馬車、色とりどりのローブ、緊張と高揚が入り混じった空気。
なるほど、ここがこの国で最も優秀な若者たちが集まる場所らしい。
「坊っちゃま、姿勢を正してください」
隣を歩くセバスが、低い声で告げる。
「背筋は真っ直ぐ、視線は前。
貴族は歩き方一つで評価されます」
「……はい」
返事をしながら、内心ではため息をついた。
公爵家の長男。
それなりに目立つ立場――のはずだが、周囲の視線は驚くほど薄い。
それもそのはず、この体の元の持ち主は「期待されていない」。
出来が悪く、放置され、学院に入れたのも体裁のため。
なるほど、空気。
「ある意味、助かるな……」
「何か?」
「いえ、なんでも」
目立たない。
これは重要だ。
女神が余計なことを言っていたが、平穏第一で行きたい。
そう思っていた――この時までは。
⸻
入学式は、広大な大講堂で行われた。
数百人は収容できそうな空間の中央に、巨大な魔法陣が描かれている。
あれが、属性判定用の術式らしい。
「順番に、魔法陣の中央へ」
教員の声が響く。
水属性、火属性、風属性。
名前が呼ばれるたびに、魔法陣が淡く光り、周囲から小さなどよめきが起きる。
――普通だ。
俺の番が来るまでは。
「次。
ルキウス・フォン・アルベルト」
公爵家の名。
わずかにざわつく空気。
俺は深呼吸して、魔法陣の中央へ足を踏み入れた。
「属性判定、開始」
足元の魔法陣が光る。
……光る。
……やけに、光る。
白い。
いや、白すぎる。
「……ん?」
次の瞬間、講堂全体が昼間のように照らされた。
「なっ――」
「光量が……!」
「聖属性……?
いや、これは……」
教員たちが立ち上がり、記録官が慌てて紙をめくる。
視界の端で、セバスが微かに目を細めたのが分かった。
(あ、これ……)
頭をよぎるのは、金髪女神の笑顔。
『神スキルだもん!』
「……やっぱりか」
魔法陣の光は、しばらくしてようやく収まった。
沈黙。
重い、重い沈黙。
「判定結果……
聖属性。
反応値、観測史上――」
そこまで言って、教員は言葉を切った。
ざわっ、と空気が揺れる。
「聖騎士候補か?」
「いや、神官系統でも……」
「公爵家の長男が?」
やめてほしい。
本当に。
俺はただ、目立たずに学園生活を送りたいだけなんだ。
ちらりとセバスを見ると、彼はいつも通り、落ち着いていた。
騒ぎが収まるのを待ってから、静かに口を開く。
「坊っちゃま」
「はい」
「どのような力を持っていようと、
振る舞い一つで評価は決まります」
淡々とした声。
「力があるからこそ、
慎みなさい」
……重い。
周囲の視線と、セバスの言葉。
両方が、ずしりと肩にのしかかる。
(目立たない計画、開始五分で崩壊か……)
俺は心の中で、そう呟いた。
講堂のざわめきは、しばらく止みそうになかった。
そして俺は、この時まだ理解していなかった。
――これが、
「目立たないやつじゃない」人生の始まりだということを。




