表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

第2話 入学式で聖属性がバレた件

 国立魔法学院の正門は、朝から騒がしかった。


 石畳の上を進む馬車、色とりどりのローブ、緊張と高揚が入り混じった空気。

 なるほど、ここがこの国で最も優秀な若者たちが集まる場所らしい。


「坊っちゃま、姿勢を正してください」


 隣を歩くセバスが、低い声で告げる。


「背筋は真っ直ぐ、視線は前。

 貴族は歩き方一つで評価されます」


「……はい」


 返事をしながら、内心ではため息をついた。


 公爵家の長男。

 それなりに目立つ立場――のはずだが、周囲の視線は驚くほど薄い。


 それもそのはず、この体の元の持ち主は「期待されていない」。

 出来が悪く、放置され、学院に入れたのも体裁のため。


 なるほど、空気。


「ある意味、助かるな……」


「何か?」


「いえ、なんでも」


 目立たない。

 これは重要だ。

 女神が余計なことを言っていたが、平穏第一で行きたい。


 そう思っていた――この時までは。



 入学式は、広大な大講堂で行われた。


 数百人は収容できそうな空間の中央に、巨大な魔法陣が描かれている。

 あれが、属性判定用の術式らしい。


「順番に、魔法陣の中央へ」


 教員の声が響く。


 水属性、火属性、風属性。

 名前が呼ばれるたびに、魔法陣が淡く光り、周囲から小さなどよめきが起きる。


 ――普通だ。


 俺の番が来るまでは。


「次。

 ルキウス・フォン・アルベルト」


 公爵家の名。

 わずかにざわつく空気。


 俺は深呼吸して、魔法陣の中央へ足を踏み入れた。


「属性判定、開始」


 足元の魔法陣が光る。


 ……光る。


 ……やけに、光る。


 白い。

 いや、白すぎる。


「……ん?」


 次の瞬間、講堂全体が昼間のように照らされた。


「なっ――」


「光量が……!」


「聖属性……?

 いや、これは……」


 教員たちが立ち上がり、記録官が慌てて紙をめくる。


 視界の端で、セバスが微かに目を細めたのが分かった。


(あ、これ……)


 頭をよぎるのは、金髪女神の笑顔。


『神スキルだもん!』


「……やっぱりか」


 魔法陣の光は、しばらくしてようやく収まった。


 沈黙。


 重い、重い沈黙。


「判定結果……

 聖属性。

 反応値、観測史上――」


 そこまで言って、教員は言葉を切った。


 ざわっ、と空気が揺れる。


「聖騎士候補か?」


「いや、神官系統でも……」


「公爵家の長男が?」


 やめてほしい。

 本当に。


 俺はただ、目立たずに学園生活を送りたいだけなんだ。


 ちらりとセバスを見ると、彼はいつも通り、落ち着いていた。


 騒ぎが収まるのを待ってから、静かに口を開く。


「坊っちゃま」


「はい」


「どのような力を持っていようと、

 振る舞い一つで評価は決まります」


 淡々とした声。


「力があるからこそ、

 慎みなさい」


 ……重い。


 周囲の視線と、セバスの言葉。

 両方が、ずしりと肩にのしかかる。


(目立たない計画、開始五分で崩壊か……)


 俺は心の中で、そう呟いた。


 講堂のざわめきは、しばらく止みそうになかった。


 そして俺は、この時まだ理解していなかった。


 ――これが、

 「目立たないやつじゃない」人生の始まりだということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ