表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カウントダウンストーリー

クリスマスのカウントダウン

作者: 和泉ユミ
掲載日:2025/12/25

思いついて、初めて書いてみました。

よろしくお願いいたします。

12月25日、日本中が輝いている中でも、この場所は特別かもしれない。

普段この街に来ない人達や観光客が、瞬間を切り取ろうと、途切れることなく歩道を埋め尽くしている。


「1年早かったなぁ」


白い雪がふわり、ふわりと降り出した景色の向こうに東京タワーを捉えながら、強張った肩の力が抜けていく。


横断歩道を抜けて、目的のホテルはすぐそこ。

今夜は恋人の健が、ディナーを予約している。


「美也」


仕立ての良いカシミヤコートを着た彼の姿に、数人の女性たちが振り返った。


「遅かったかな?」

「俺が待ちきれなかっただけ、充分余裕があるよ」


なんとなく空を見上げると、ビルの合間に切り取られた空から降る牡丹雪が、時を遅くする仕掛けのように感じる。


健が私の顔を覗き込んで、そっとエスコートしてくれる。


(こういう時間っていいな)


2人は慣れた足取りで喧騒から離れていった。






軽やかなエレベーターの開閉音とともに、眩しいほど白で統一された、メインダイニングの入り口が目に飛び込んだ。

予定より30分早く着いた私たちに、クロークの男性が一瞬の間を見せた。


「横のバーで一杯飲んでから入りたいので、声をかけてもらえますか?」

「承知いたしました。お席のご用意が整い次第、お声がけいたします」


健が私の腰に手を当てた。


「何飲む?」

「マティーニ」

「俺はバーボンだな」


バーは、照明が少し落とされた空間で、狭くはないけど、秘密の場所めいている。


バーテンダーに会釈して、入り口からほど近いカウンターに並んで腰掛けた。


「……乾杯」


どちらからともなくグラスを合わせる。

店内に流れるジャズの話をして、あっという間に時間が過ぎていく。


2人で笑い合っている途中で、笑顔のままの健が、スーツの下の白い袖を少しずらして、腕時計を確認した。

そろそろ時間?


「お席のご用意が整いました」






案内されたのは、ゆったりとした窓際の席だった。



(今夜こそ、美也にちゃんと話さないといけない)



「どうしようか、アラカルトでいいかな」


美也がメニューを開くのを見て声をかける。


「そうだね。健はワイン決めて、赤がいい」


美也が好きなカベルネ……



(焦らず。様子を見て、切り出そう)



「ねぇ、雪積もるかな?」

「今夜は風邪ひかないようにしないと」


たわいもない会話をしながら、時間が気になる。

バーで確認した時は、あと50分だった。



(店内が賑やかになる前に、話しを終わらせたい)



ウエイターが料理を並べた後に、ワゴンから小さなスノードームを一つ選んで、ことりとテーブルに置いた。


「雪の日のサービスです」


どうやったのか、本物の雪を閉じ込めて作ったらしい。


「食事が終わる頃には楽しめますよ」


その言葉に、彼女が控えめに笑った。


——いいな。


「最近、仕事はどう?」


サラダをつつく手を止めて、美也が俺をみる。


「何、急に? ……今は落ち着いてるけど、春頃に新しいプロジェクトを任されそう。忙しくなるかも」

「そうか、美也はトリリンガルだし、そりゃ重宝されるよな」

「言葉だけ喋れてもね」


彼女らしい返しに、心の中でうなずく。


「ねー、健、あとでデザート頼んで良い?」

「珍しいね、気になったのあった?」

「イヴだし」

「確かにな、……ホワイトイヴ」


まだ溶けきっていない真っ白なスノードームをつつきながら言ってみる。


「何それ、変な言葉」


あははと笑う顔は、気取りのない俺の前だけで見せる顔だ。



(……言うなら、今だ)



「こんな夜は、何か——」

「失礼致します。お飲み物のおかわりをお持ちいたしましょうか?」


割り込んできたウエイターに、救われたのか、邪魔をされたのか。


「何にする? 俺はバーボン、ダブルで。チェイサーと一緒に頼む。美也は……」

「私は、シャンパンにしようかな」

「かしこまりました」


その姿を横目に、美也に視線を戻す。


「何?」

「いや、今日のドレス似合ってるね」

「ありがとう。偶然、健のポケットチーフの色とお揃い」


彼女が胸元に手を当てて、また微笑む。


戻ってきたウエイターが酒をサーブしながら、美也に今夜の特別を伝える。


「あと15分ほどで生演奏が始まります。ごゆっくりお楽しみください」



——15分。



「あ、一緒にデザートも頼めば良かったかな」


「いいよ、これ飲みながらゆっくりする」


泡立つシャンパングラスを手に、美也が俺を見る。


「そうだな…」


生返事。

しまった、こう言う時の美也は異様に勘が良くなるんだ。


「健、私に何か話があるんでしょ」

「え?」


無意識に、グラスを煽った。


美也は何も言わず、じっと待っている。


「……来年の春、異動が決まった」

「どこへ?」

「ロンドン」

「へえ……で?」


スノードームの雪が、音もなく溶けて、中のグリッターがふわりと舞った。


「美也も一緒に来て欲しいんだ」

「まず一つ聞きたいんだけど、その内示はいつ出たの?」

「ちゃんと出たのはまだ…」

「あなたの会社、海外赴任が突然知らされるわけないよね?」



さて、どう返すのが正解だ?

思考が一気に走り出す。



背後で、ステージに上がった楽団員たちが音合わせを始めた。


「私の仕事のこと、考えた?」

「ごめん、伝えるタイミングを迷ってて」

「……あなた、仕事でそれを迷うことなんて、あるの?」

「確かに——」

「マンションはどうするの?」

「それは大丈夫だよ、不動産屋に軽く話してある」

「つまり、私に話すのは不動産屋の後?」



美也のスイッチが入ってしまった。







♪ All I Want for Christmas Is You ——


歌声が流れた瞬間、レストランがクリスマスに包まれていく。


煌めく照明、香りたつ料理と、人々の笑い声。

ウエイターが忙しくテーブルの間をすり抜けていく。

天井の小さなミラーボールが、テーブルに光の彩りを描いている







「これは“相談”じゃなくて、決定事項の同意取りだよね?」

「ど、どうかな……」


「私はどう言う立場でついていくの?」


私の言葉に、健がハッとしたように見つめ返した。

その目が、真っ直ぐで、逃げ場がない。


これはダメだ、健はずるい。


「美也、結婚してください」


「……石は自分で選びたい」


健は一瞬だけ時計に視線を落とし、

それから、同じ目で、私を見た。


「今から、見に行こうか」






テーブルのスノードームのグリッターが、キラキラと舞い落ちる。


窓の外、牡丹雪はまだ止まない。






おしまい


Merry Christmas




疋田健(ひきた たける)28才・加藤美也(かとう みや)25才 美也は早生まれなので二学年差。


どの店に行くか、カルティエかなー。美也はどんな石を選ぶでしょう?

年月を経て、健が贈るリングを重ね付けていく。細い主張のないリングとか、パヴェとか?日常的につけるかどうかはわからないけど、エンゲージつけてる日はニマついてる。可愛い美也。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ