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クウォーク大帝国 潮の楔  作者: 北見剛介


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9/11

大人の男になるために

「すごいじゃないか、ライサンダー。さっきよりは進歩してるんじゃないか?」


「確かにそうだけど、こんなんじゃダメだ。もっと練習しないと」


「じゃあ、ここからは練習あるのみだな」


そうしてライサンダーの特訓の日々が始まった。朝、誰も起きない時間に起きて海に行き、夜の誰も海に入らない時間に海に入る。みんなが起きている時間には特訓できない。大人たちにばれたら、


「危ないだろ」 そう怒られることがわかり切っているからだ。


本来は、16歳の誕生日に海で自分のスイチョウを選び、乗る練習をする。何年もかけて練習し、漁に同行して、ズーフのような大型の獲物をしとめて初めて、シャガル族の男だと認められるのだ。


特訓を重ねるごとにファンプクに乗れる時間は長くなったし、だんだんと周りを見る余裕も出て、自分の思った方向にファンプクを動かせるようにもなってきた。ただ乗るだけならだんだんと様になってきたんじゃないか、と自分でも思う。


「それでも、銛を使って獲物を捕らえるってなると、話は別だよなぁ」


「今俺をそれなりに乗りこなせているだけでも、相当すごいと思うけどな。ここ数カ月、相当頑張ったろ?」


「それでも、俺はまだファンプクを自由自在に乗りこなせるわけじゃない。乗っても振り落とされることはもうないけど・・・・」


「12歳の子どもが、スイチョウから振り落とされずに乗れることがどれほどすごいことか、ちゃんとわかってるか?」


「そりゃぁ、なんとなくは・・・俺だって最初はまともに乗れなかったし」


「あんまり焦るな。ライサンダーは充分立派なシャガル族の男だ。後は向こうが来るのを待てばいい」


「でも俺はまだ漁に出てないし・・」


「しょうがないだろう。漁に出させてもらえるような年齢じゃないんだから」


「うーん、なぁんかそれだとすっきりしないなぁ」


「ほら、もう夜も遅い。今日はもうやめにしよう」


「それもそうだな。じゃあ、お休み、ファンプク」


「おう。お休み」


海から上がると、頭の上では満点の星が光り輝いていた。


プライエスト、俺今頑張ってるよ。立派なシャガル族の男になろうとしてるよ、だからそっちも、頑張って


そう心の中でつぶやいて、ライサンダーは部屋には戻った。


その後もライサンダーは特訓を続けた。今度は実際に銛をもって、スーファを追いかける特訓だ。ファンプクを両手でしっかりと握れていた今までとは違い、銛を持ちながらなので、ほぼ片手でファンプクを操縦する必要がある。今まで以上に筋力を要求されるのだ。


だから、特訓の時以外の時間に筋トレを始めてみた。家の近くにある木にぶら下がって懸垂をしてみたり、家で腕立て伏せをしてみたり。3カ月ほど続けると、非力で小柄なライサンダーの体にも目に見えて筋肉がついてきた。


4人での腕相撲の順位は、フランシュ、タレッサ、ライサンダー、ベティ、だったが今ではライサンダーが二番目だ。


初めて、ライサンダーがタレッサに勝った時、その場でライサンダーを殴ったり、文句を言うことはなかった。ただ下を向き、唇をかんでいた。


ただ、ふとした時に振ってくるげんこつはいまだにタレッサには勝てないと思う・・・というか、受けるごとにだんだん強くなってる気すらする。



ある日の朝はやく、この日もライサンダーは銛を持って特訓をしていた。最近は大分慣れてきて、銛を持ってスーファを追い回すぐらいならお茶の子さいさいだ。


「あとは実際の漁の機会さえあればなぁ。スーファとかなら、もう捕まえられるぜ」


「何度も言うが、こればっかりはしょうがない。成長を待つしかない」


「いっそのこと、漁に参加させてくれ、って言ってみるのは?」


「お前のところの長老は認めないだろうな」


「だよなぁ」


長老、もとい集落長は昔からの伝統を守ることを、とても重要視するタイプだ。たとえ俺が自由自在にファンプクを乗りこなす姿を見ても、成長してからだ、とすげなくあしらうだろう。他の大人たちは勝手に練習したことを怒りはするだろうが、漁への参加は認めてくれそうな気がする。


そもそも長老は、ライサンダーのことを毛嫌いしているところがある。多分母が生贄になるときに、俺が駄々をこねたからだろう。それ以来長老は俺のことを監視するような視線を、ずっと送ってきた。


「いっそのこと自分一人で・・・・」


「それはダメだ」


ファンプクにはっきりと言われてしまった。まぁ、そうだろうな、とは思っていたけど。


「漁に出るには、集落長の許可が必要だ。忘れたわけじゃないだろ?」


「忘れたわけじゃないけどさ・・・」


「あれはただの許可じゃないんだ。集落長は自分が許可を出した後に、海にその者が漁に出ることを報告しなくちゃいけない。そうしないと・・・」


「災いが起きるってことね。でも、実際に災いが起きたことなんてあるのかよ?」


「伝承によると・・・・」


「また伝承かよ・・・」


そう言ってライサンダーがため息をついたとき、男たちが浜から海に飛び込むのが、かすかに見えた。すぐにスイチョウに乗ると、ライサンダーがいる方向とは別の方向に向かっていく。


「なんだ?漁に出るのにはまだ早い時間なのに。長老の夢の予言か?」


漁の時間は基本一定だが、長老が見た、夢の予言によってはその時間が早くなったり遅くなったりする。長老の夢一つで漁の時間が変わるのだから、これほど迷惑なこともない。


「だろうな。早い時間ってことは大型の獲物がいるのかもしれない」


「なんで」


「早い時間に出る時は、大型の獲物を捕まえる時が多いんだ」


「なるほど・・・じゃあ、ファンプク。こっそり見に行こうぜ」


「そうだな。どうやって大型の獲物をとるのか、見ておくのは悪くない」


そしてライサンダーはファンプクにまたがり、少し離れて大人たちの後を追った。



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