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クウォーク大帝国 潮の楔  作者: 北見剛介


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海への祈り

「あら、ライサンダー。あなた全然食べてないじゃないの」


 しまった。別のことに気を取られすぎて、肝心の料理を食べ忘れていた。せっかくのあったかいスープが冷めてしまう。そう思い、慌てて料理を口の中に放り込んだ。


「やあ。ライサンダー。さっきは儲けさせてくれてありがとう」

「グンタ―、ひょっとしてあなたも賭けてたの?」

「この人だけじゃないわよ」

「フェルンまで・・・・もう夫婦そろって何やってんの」


苦笑いで、ライサンダーが言うと目の端で、クリムが頭を抱えるのが見えた。グンタ―とフェルンは夫婦であり、ライサンダーとはご近所さんだ。ここにもたまに夕食をごちそうになるときがある。グンタ―は、村の男の中では珍しく、筋骨隆々でもなければ漁に出るわけでもない。色も白いし、髪も青、ほっそりとした体をしていて、たまに集落に来る行商人のルークみたいな感じだ。


しかし、彼が作る服は一級品。他の集落、もしくは族にも高く売れる。水の中に入っても濡れないし、抵抗も少ない。シャガル族の人間にしか、こんな服は作れないらしい。他の族、山とか森に棲んでいる者たちが作る服は水に入ると、濡れて、とんでもなく重くなる、もしくは溶けてしまうらしい。それを聞いたときにはとても驚いた。


 奥さんのフェルンは、もともと別の族の者だったそうだ。シャガル族同士で、違う集落の人同士が結婚することはよくあることだ。しかし、別の族の者同士が夫婦になる、というのはライサンダーが知る限り、この二人だけだ。


元々、フェルンは山での生活が嫌になって集落を飛び出してきたそうだ。そうして、行商人をしながらいろんな集落を回っていたところ、ここにたどり着き、グンタ―と出会った。そうして5年前に結婚、そろそろ赤ちゃんも考えているそうだ。生まれてきたら、全力で可愛がり、遊んであげて、お兄ちゃんと呼ばせよう、そうひそかに心に決めている。


「何よ、みんなライサンダー、ライサンダーって。私だって頑張ったのに。それに腕相撲だったらライサンダーに負けないんだからね」

「だったら腕相撲で勝負すればいいんじゃない?」

フェルンが不思議そうに聞いた。

「それはダメ。だって私が得意なところでライサンダーに勝つのは当たり前じゃん。ライサンダーと互角なところで勝たなきゃ、意味ないの」

「確かに。そうでないと賭けが面白くならないからね」

「どんだけ賭け事好きなんだよ・・・・グンタ―」

「ちなみに私はタレッサに賭けたよ」

「本当?」


フェルンの言葉にタレッサが目を輝かせた。自分に期待をしてくれた人がいる、というのが嬉しいのかな。


「あんたの度胸と力、あと勝ちたいって執念に賭けたのさ」

「でも、負けちゃった・・・・」

「なら、次勝たなきゃね」


フェルンは器用にウインクをして、タレッサを抱きしめた。豊満な胸がタレッサの顔に押し付けられている。しかもフェルンは胸元を開けた服をよく着ているため、胸が直にタレッサにあたりそうになっている。いや、ダメだ。人の奥さんにそんな感情を抱いてはいけない!!断じて今俺はタレッサにその位置ちょっと変わってほしいなぁ、なんてことを想ってはいない!!絶対に、絶対だ!!!


フェルンもなかなか美人なのだ。雰囲気で言えばタレッサをそのまま大人にした感じだろうか。タレッサの胸も成長したら、あんな感じになるのかな。大人になったタレッサの胸をつついたらどんな反応をするんだろう。大人になって強化されるであろう、げんこつを落とされるのだろうか、それとも・・・・・


「おーい。みんな食べ終わったかぁ」


そこまで考えたところで、長老の声が響いた。いつもより食べる量は少なかったけど、まぁ仕方がない。夜ご飯をいっぱい食べればいいのだ。


「じゃあ、行くぞ」


長老の一声でみんなが立ち上がり、神殿のほうを目指し始めた。先ほどまで和やかだった食卓の時間だったのにも関わらず、表情はみんな真剣そのもの。もちろん、俺もだが、みんなほど真剣ではない。どっちかというと少しめんどくさいと思っている。


神殿は炊事場から、大通りに出て酒場を左に曲がり、その先にある坂を上った場所にある。いつも先頭は長老でその後に集落のみんなが続く。ライサンダーの定位置は一番後ろだ。ここにいればみんなの動きが良く見える、疲れている人、元気な人、体調が悪い人、めんどくさそうにしている人。そういう人を観察することが、ライサンダーのこの時間中唯一の楽しみだ。


毎回思うことだが、長老はすごい。後ろから見てると、そのすごさがよりわかる。もう100歳を超えてるはずなのに、すたすた先頭を進んでいく。他の年よりはもっと後ろを、それも家族に支えられて歩いている人が、ほとんどだというのに。


5分ほど歩けば、もう神殿についた。ここで今日の漁の報告、犠牲者が出なかった時への感謝を海の神様に伝えているのだという。


「母なる海よ・・・・」


長老が祈りをささげる時、いつもこの、母なる海よ、という文言だけは聞こえる。後の言葉はよくわからない言葉でしゃべっているため、ライサンダーには意味が分からない。多分シャガル族の古代文字だろう。


長老が言葉を言い終わって、お辞儀をすると全員がそれにならった。2分ほどお辞儀をしていると、長老の声が響いた。


「よし、もういいぞ」


その言葉を聞くや否や、ライサンダーは駆け出した。長老の声が聞こえたら、祈りの時間は終わり。もう自由に過ごしてよいのだ。いつもならタレッサたちと遊ぶか、一人で海に泳ぎに行くかだけど、今日は違う。今日は、友達が来ているのだ。ライサンダーの生まれて初めてできた友達、と言ってもいい。


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