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クウォーク大帝国 潮の楔  作者: 北見剛介


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3/11

帰らぬ父、生贄となった母

浜辺から10分ほど走って、大通りを抜け、炊事場に着くと、大人たちも漁から返ったようで、既に食事を始めていた。タレッサはどこだろう、随分先を走っていたはずだから、もうついてるはず。


少し探すと、いた。タレッサは両親と一緒に食事をとっていた。少し、ずきりと胸が痛んだ。


シャガル族は集落全員で昼の食事をとる。男たちが漁に出ている間、その妻たちは前日に撮れた食事を使って、料理を作り、帰りを待つのだ。そして無事帰ってくれば盛大に宴を開き、飲めや歌えやの大騒ぎ。しかし、誰か一人でも帰ってこなければ・・・・その食事は死者を弔い、海へ祈りをささげるものとなる。


「タレッサ、お前足早すぎだろ」


会話が途切れた瞬間を狙い、ライサンダーは話しかけた。


「あんたが遅いのよ」


「よう、ライサンダー。かくれんぼの結果はどうだったんだ?」


そう声をかけてきたのはタレッサの父親である、アズバンだ。筋骨隆々とした体に、日焼けした肌、漁の際は豪快だが、いざというときには冷静、普段は穏やか、相棒のスイチョウであるギタークルを乗りこなす姿は、ライサンダーの憧れだ。しかし、一度飲むと悪酔いするところだけは、どうにかしてほしいと思っている。


「あれ、タレッサから聞いてないの」


「タレッサに聞いたら、『言いたくない』っていうもんだから」


「言わないで」


さえぎったのはタレッサだった。先ほどまでは笑顔だったのに、今は目の奥が若干うるんでいる。


「なんで」


「あんたが言うと、またぶん殴っちゃう。フランシュかベティが来たら、二人に言ってもらう」


そこまで言ったらもう答えのようなものだ。ちらりとアズバンを見て、こっそりとピースサインをすると、向こうも困ったような顔をした後、グーサインを返してくれた。


「もう、タレッサ。だめじゃないの。ライサンダーの顔、少し腫れてるわよ」


「まぁ、いいじゃないか。まだ子供なんだし」


「あのねぇ・・・もぉ、あなたは本当にタレッサに甘いんだから」


困ったように目じりを下げたのは、タレッサの母親、アズバンの妻のクリムだった。真っ黒に輝く髪、白い肌、琥珀色の瞳と、タレッサというよりベティに雰囲気が似ており、顔も整った顔立ちをしている。育ての親、というひいき目を抜きにしてもこの集落、ひいてはシャガル族の中でも一番の美人だ。


タレッサも美人なほうではあるが、クリムと比べるとレベルが違う。唯一の欠点は、怒るとめちゃめちゃ怖いとこだ。


「ライサンダー、あなた大丈夫?タレッサに嫌なことされてない?」


「大丈夫だよ。恒例行事だし。クリムこそ昨日はごめんね。お墓参り付き合ってもらっちゃって」


「いいのよ。ファルンとイザベラは私の友人でもあるんだし」


ファルンはライサンダーの父親、イザベラは母親だ。父親は漁に出た日、嵐にあった。なんてことない普通の日だったのだが、天気が急変したのだ。


その日漁に出ていた他の人たちの話によると、父はもっと獲物をとってくると言って、相棒のスイチョウとともに、いつもより沖へと向かったらしい。その直後海は荒れ、嵐が巻き起こり、父は二度と帰ってこなかった。


 シャガル族の掟として、漁の途中で死者が出たら、それは海が怒っている証拠、よって生贄をささげることで海の怒りを鎮めなければならない、というのがある。通常生贄は族長と、集落長が話し合って決めるのだが、この時はそうではなかった。


イザベラが自分から手を挙げて、生贄になると言ったのである。当時ライサンダーは6歳だった。そんな幼い自分を置いて、なんで母親は死のうとしているのか、なんで自分のそばにいてくれないのかが、さっぱりわからなかった。いや、今でもわからない。


 「ライサンダー、ごめんね。ごめんね」


生贄の儀式が行われる前日の夜に、大泣きする俺を抱きしめながら謝る母の姿を思い出す。


 「でも、誰かがやらなきゃいけないの。そういうルールなの」


 「ルールってなんだよ!!!そんなルールなんてくそくらえだ!!!」


 「でも悲しむ必要はないわ。海に潜れば、私も父さんもそこにいるわよ」


「みんなそう言うよね。でも海に潜った時に、今まで生贄になった人達なんか見えたことないよ!!母さんもみんなも嘘つきだ!!」


「目には見えないわ。でも、そこにいるのよ」


「見えないんなら、いたって意味ないじゃないか!!だったら僕も生贄になる!1そうすれば父さんや母さんと一緒にいれるっていうんなら!」


「あなたはまだ駄目」


「どうして?」


「幼すぎるわ。生贄になるのは大人なの。大人の体をささげることが海の神様の怒りを鎮める方法なの」

「大体神様なんて見たことない!!なんで見たことないものをみんな尊敬できるんだよ!!」


「確かに私には神様には見えない。でも、見える人には見えるのよ」


ここまでの会話は、はっきりと覚えている。他にも言葉を交わした気がするが、あまり記憶に残っていない。


そして翌日の儀式で、母は波にのまれ、海の向こうへと消えていった。



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