危険な漁
「おい、こっちだ!!」
男たちの声が海の中に響く。その視線の先には20メートルはあろうかという巨体のリーガがいた。この海の中で最も強く、最も大きい生き物。その両目は海の底のように真っ暗で、その鋭い歯と大きなあごは、固い岩をも砕き、そのしなやかな体は巨体に似合わぬスピードを生み出す。普段はシーファや動きの遅いズーフを捕食するが、時には野生のスイチョウが捕食されることもあるという。子供たちにも、海の中でこいつを見かけたらすぐに逃げろ、と言われるほどの存在だ。大人でさえ、積極的に狩りに行くことはない。
「なんでリーガを・・・・」
そうつぶやくファンプクにライサンダーが答えた。
「最近、漁の成果が良くなくてさ、スーファもズーフも海にいなかったから、みんなお腹減らしてんだよ。だからだと思う」
「なるほどな・・・死人が出なければいいが」
「死人?どういうことだ」
「リーガは海の怪物だ。そう簡単に狩れる獲物じゃない。今までシャガル族の男が何人もあいつにやられたと、聞いたことがある」
「漁で死人が出れば・・・」
「誰かを生贄としてささげなければいけない」
生贄、それだけはダメだ。あんな理不尽な形で、命を奪われることは絶対にあってはいけない。もし、クリムが生贄になったら?アズバンだったら?いや、フェルンか?それともグンタ―かもしれない。
俺は、もう自分の家族を、知り合いを、あんな形で失いたくはない。それにもし両親が亡くなったら、タレッサはどう思うだろう。泣いて、泣いて泣きじゃくって、ふさぎ込んで、もう二度と元に戻らないかもしれない。元気で、明るくて、でも以外に優しいところもある、そんなタレッサが失われてしまう。
「ファンプク、俺たちも近くに行こう。遠巻きに見てるだけじゃダメだ」
「まさか漁に参加する気か?」
「いや、誰かが危ない目になりそうだったら、出て行って助けるだけ。最初から漁に参加しても足を引っ張るだけだ」
悔しいが、これが現実。いくらスイチョウに乗れるようになったと言っても、大人たちのスイチョウの操縦とは雲泥の差がある。
「いい判断だ」
大人たちにはばれないような、でもいざとなれば助けに入れるような距離の岩場に、二人は隠れた。
大人たちはリーガの巨体に果敢に向かっていき、銛でその皮膚に傷をつけていく。一撃で仕留めるわけではなく、時間をかけて、安全に漁をするつもりだ。
その後も、一定間隔で攻撃を続けていた。全員が攻撃をすれば、いったん離れて向こうの体力の消耗を待つ。もちろんリーガも抵抗してきたが、そこは歴戦のシャガル族の男たち。リーガの攻撃をぎりぎりのところでかわし続けた。
そんなことを繰り返していると、30分もすれば、その体は傷だらけ。血も大量に流れている。攻撃する体力ももう残っていないようだ。
「よし、最後の一押しだ!」
誰かが号令をかけて、一斉にリーガに突っ込んでいく。しかし、どうやらリーガは最後の体力を残していたらしい。
「グォォォォォ!!!」
「何っ」
巨大なしっぽを振り回し、歯をむき出しにしながら突進してくる。ほとんどは攻撃をぎりぎりかわせたが、まさにリーガの背後から攻撃態勢に入っていた男が、巨大なしっぽにあたった。こちら側に飛ばされ、さらに奥のほうに流されていく。体に力が入っていない。おそらく気を失っている。
「まずい!」
そう叫ぶ前に反射的に飛びだしていた。このまま流されると、海の谷につながる。そこは常に下向きの海流が流れており、一度はいればそう簡単には抜け出せない。




