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クウォーク大帝国 潮の楔  作者: 北見剛介


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序章

海は、我らが生命の源なり。


恵みを蓄え、富を育み、あらゆる命をも生み出す母なるもの。


海絶ゆる時、我らもまた絶える。


ゆえに人は、潮の満ち引きに祈りを捧げ、海の機嫌に己が生を委ねてきた。


されど、海はただ優しき母にあらず。


いにしえの時より、海は恐ろしきものとしても知られる。


その懐深くには、光の届かぬ淵があり、そこに眠る古き力は、


人が計り得ぬ怒りと飢えを宿すと伝わる。


古老の語りによれば――


潮は贄によって鎮まり、


贄絶ゆるとき、海霊の怒りは波とともに天を震わせる。


そして、淵に封じられし魔どもが、


海より這い出でて大地を汚すという。


かつて海の怒りを忘れた時代があった。


人々は豊穣に驕り、祈りを絶やし、贄の儀も怠った。


その夜、海は黒く沸き立ち、


大蛇のごとき波が島を呑み、


闇の獣らが海霧とともに現れ、


多くの命が潮に奪われたと記されている。


その惨禍より、人は知った。


海は与え、奪い、試すもの。


海を鎮めし贄は、人の命の代わりに海に抱かれ、


その魂は波に溶け、島を守る楔となる。


ゆえに人は今もなお、


海を恐れ、海を敬い、


潮の声を聞き、


贄の名を静かに告げる。


“海を忘れし者に、海は牙をむく”




世界がまだ一つではなく、クウォーク教も存在しない、ずっと、ずっと昔のこと。人ならざる者がいた時代があった。それらはありとあらゆる場所に存在した。山にも、森にも、海にでさえも。


その数は人よりも多く、人はそれらとともに生活をしていた。しかし今は一部の植物を除いて、その姿を垣間見ることはない。


教典にはカンタビレー歴675年に、人ならざる者は、絶対神クウォークの名のもとに聖帝ユファウヌスによって消された、とある。なぜ消されたのかはわからない。ユファウヌス、ひいてはクウォーク教にとって都合が悪かったのか、教典にも、その他の歴史書にも詳しいことは書かれていない。


その後クナーシア歴145年に、ギルハティ公国の一部が聖ルティ王国と名乗って独立したことをきっかけに、ギルハティ公国、そして聖ルティ王国の独立を支援した聖クマール王国の戦争が勃発した。これが世界統一戦争、その後数々の国を巻き込んで、数世紀にもわたって続く大戦争の幕開けであった。この戦争についての詳細は、ここでは省かせていただく。



冒頭に述べた伝承は、現在のクナーシア領東部のあたりに住んでいたと言われる、海とともに生きたシャガル族の間で、はるか昔から言い伝えられてきた伝承である。


この伝承を彼らは非常に重要視しており、年に一度行われる祭りで必ず生贄を用意し、その年の繁栄、新たな命の誕生を願ったそうだ。


生贄をささげなかった場合に出てくる魔とは、エルドラン公国で恐れられた怪物、イザミア、もしくは4帝国体制に多大なる貢献をした、フレンベン帝国国王 「精霊王」フェンリルによって討伐された破戒魔、オロガルンともいわれている。


シャガル族は、聖子族、ファルストルフ家の先祖であるということは周知の事実であり、歴史家にとっても、人ならざる者たちがいた歴史を解明するための鍵として見られている存在だ。同時に歴史上もっとも謎な民族、とも言われている。


他の有名な民族たち、例えばジョルヤ家の先祖であり、山とともに生きた「フィルマ族」、クナーシア家の先祖であり、森とともに生きた「ユフティ族」は数々の記録が見つかっており、その言語も完全に解読済みだ。


 しかし、シャガル族は記録が極端に少ないうえに、その言語体系が他の民族に比べて、非常に複雑なのだ。他の民族の言語を取り入れていたり、なぜか文字の体形が複数あったりするのである。


そのため解読できているのは、ファルストルフ家に伝わっていた一族の伝承、そして他の民族の歴史に登場する一部の歴史にとどまっている。この記録の極端な少なさは、やはりシャガル族がクウォーク教の重大な何かに関係しているのではないか、だからクウォーク教があらかじめシャガル族の記録を発見し、隠しているのではないか、という憶測を呼び、シャガル族こそ歴史の鍵とする声が高まっている理由の一つだ。


その他にも、フィルマ族の第25代族長であったグラムと、シャガル族第76代族長マンスリー、ユフティ族第21代族長ゴンシルはそれぞれ友人のような関係だったとされ、族同士で交易も行っていた。


この交流は族長が亡くなっても続けられていたそうで、一説にはこの集まりが聖子族につながった、さらに、クウォーク教の教祖かつ唯一神、クウォーク様は、この族のいづれかの出ではないか、とまで言われている。


 その判明しているごく一部のシャガル族の歴史の中で、大きな転換点となったであろう時代。伝承で言えば


人々は豊穣に驕り、祈りを絶やし、贄の儀も怠った


とされている時代。


この時代のものと思われる詳細な記録が、つい近日ファルストルフ領近くの小さな神殿で発見されたのだ。


通説ではシャガル族が贄の儀を怠った期間は、一族の伝統を忘れ、自然の恵みを受けながらも、ただそれを食いつぶしていたため、海の怒りを受けた・・・とされていた。実際伝承にはそう記載されている。


そしてそれは事実だった。


 しかし・・・始まりはそうではなかったようだ。この歴史を語るには、一人の青年、そして海の贄に選ばれた少女、この二人の物語から話さなければならない。


 青年の名は、ライサンダー


 少女の名は、タレッサ



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