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月の声を聴く夜  作者: 山川海雲
第五章:朝の祈り ― 再生と希望
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第四十九話:見上げた空

 湊が旅立ってから、最初の朝。

 目覚めた柚の隣は空虚だった。シーツの冷たさが、昨日の確かな体温とのコントラストを際立たせる。

 だが、柚はベッドから起き上がると、静かに微笑んだ。

(寂しい。けれど、怖くはない)

 その感覚は、まるで、透明な繭の中で守られているようだった。湊はここにいないが、彼との信頼が、柚の魂の部屋の窓を開け放ち、新鮮な空気を送り込んでいる。

 柚は、自分の部屋に戻り、窓を開けた。

 都市の空気は、地方の清澄さとは違う、微かな埃と湿気を含んでいたが、柚にはそれが「生きている世界」の匂いとして感じられた。

 彼女は、静かに空を見上げる。

 高層ビルに切り取られた小さな空。雲は流れていく。

 そのとき、強い風が吹き、柚の髪を大きく、しかし優しく揺らした。

 風は、柚の頬を撫で、襟元から入り込み、身体の内側を通り抜けていく。

 その触覚を通して、柚は深い、深い安堵を覚えた。

(ああ、私、愛されている)

 それは、湊からの愛だけではなかった。

 風が私に触れること。光が私を照らすこと。空気が私を生かしていること。

 柚を突き放し、冷たい沈黙を与え続けたと思った世界は、本当は、優しく、ただ無言だっただけなのだ。

 風が髪を揺らすたび、柚の心が静かに呟く。

「大丈夫」

 孤独は、もはや責め苦ではなく、個として立つための、静かな土台になっていた。

 柚は、風が通り過ぎるのを待たず、自ら進んで風の中に顔を晒した。

 彼女は、誰にも依存することなく、世界という名の大きな愛の真ん中に、確かに立っている。

 柚の心に、孤独と愛は、もはや対義語ではなかった。

 孤独は、愛の静かな受け皿。そして、愛は、孤独を温かく満たす光の粒だ。

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