第7章 玲奈の隠しカード
玲奈は震える指でキーボードを叩き、隠しフォルダを開いた。
画面に浮かび上がったのは、帳簿データだけではなかった。
――社内の監視カメラ映像。
佐伯や片桐、そして背後の幹部たちが秘密裏に会議を重ねてきた映像が、鮮明に保存されていた。
「……これが何か、分かりますか?」
玲奈は声を震わせないよう、ゆっくりと再生ボタンを押した。
スピーカーから流れる声。
《口をつぐんでおけ。問題が表沙汰になれば、我々全員が終わる》
会議室のスクリーンに、証拠としての動画が大きく映し出される。
捜査員たちの表情が変わった。片桐に向ける視線に、疑念と敵意が混じる。
片桐の顔色がわずかに青ざめた。
「……馬鹿な。そんな映像が残っているはずが――」
玲奈は冷ややかに告げた。
「あなたたちは“データ”しか気にしていなかった。でも、本当に危険なのは、別ルートで保存されていた“映像”です。
あなたの声も、あなたの顔も、全部……消せませんよね?」
片桐は一瞬言葉を失い、次の瞬間リモコンを握りしめた。
「ならば――ここごと消す!」
だが、玲奈は先回りしていた。
「そのリモコンの周波数、解析済みです。あなたが押しても作動しない。」
片桐の指が震えた。視線が泳ぎ、額から汗が伝う。
捜査員たちは一斉に彼を取り押さえた。
玲奈は深く息を吐いた。
――これで終わり。
だが、胸の奥ではまだ冷たいざわめきが残っていた。
片桐の切り札を潰した今、組織の一角を崩すことには成功した。
だが彼の口から最後に洩れた言葉が、玲奈の心に突き刺さって離れなかった。
「……黒幕は……まだ……」
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玲奈は窓の外の夜明けを見つめた。
窮地を抜け出すたびに、新しい闇が姿を現す。
それでも彼女は、もう恐れなかった。
次の罠が待ち構えていようと――頭脳と意志で、必ず生き延びてみせる。