第6章 片桐の切り札
武装した捜査員が会議室になだれ込み、スーツの男たちは次々に床へ押さえつけられていった。
玲奈は勝利を確信しかけていた。
だが――。
「……やはり君は侮れないな。」
乱れたネクタイを直しながら、片桐がゆっくりと立ち上がった。捜査員は彼にも銃口を向けたが、彼は落ち着き払っていた。
「だが、ひとつだけ誤算がある。」
玲奈の胸がざわめく。
片桐はポケットから、小さなリモコンのような装置を取り出した。
「この部屋の通信は、私が握っている。君が誇らしげに言った“自動送信”――残念だが、さっきから一度も外に届いていない。」
「……!」
玲奈は血の気が引いた。
「私がここへ君を連れてきたのは、罠にかけられることを承知の上だった。だがね、玲奈君――“真実”なんてものは、コントロールする側の手にしか残らないのだよ。」
捜査員たちが戸惑いの声を上げる。
「どういうことだ……? 通信が遮断されている?」
片桐は薄く笑った。
「今この瞬間から、状況は再び私の手の中にある。」
玲奈は息を呑んだ。
自分が張り巡らせた仕掛けは、逆に利用されていた。
――まだ、負けていない。
玲奈は震える指でPCを操作し、残されたわずかな希望を探った。
一瞬、画面に隠しフォルダのアイコンが光る。そこには……まだ片桐が知らない“別のカード”が眠っていた。
玲奈は目を上げ、片桐の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「……あなたが切り札を持っているなら、私にもまだ切り札がある。」
片桐の笑みが一瞬だけ揺らぐ。
会議室の空気は再び張り詰め、まるで誰もが息を呑んで次の一手を待っているようだった。