第4章 サスペンス
夜明けの港。警察が到着し、佐伯と部下たちは次々と拘束されていった。
だが玲奈の胸は晴れなかった。――早すぎる。
あまりにも都合よく、警察が駆けつけたのだ。
「玲奈さん、これで一件落着ですね。」
片桐が安堵の笑みを浮かべる。その言葉に、玲奈は違和感を覚えた。
「どうして……警察が来るタイミングが、あんなに早かったんです?」
片桐は一瞬、視線を逸らした。
「……通報しておいたんですよ。あなたを守るために。」
だがその説明は不自然だった。通報から到着まで、いくら港が近いとはいえ、数分で駆けつけるのは不可能だ。
玲奈の背筋に冷たいものが走った。
――この人は本当に味方なの?
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数日後。
片桐の提案で、玲奈は都内の安全なシェルターに身を隠すことになった。表向きは「取材の保護」という名目だ。
だが滞在しているうちに、玲奈は気づいた。彼が使うパソコンには、新聞社のものではない、別の組織のロゴが隠されていた。
ある夜、玲奈は眠ったふりをして片桐を観察した。
彼はパソコンに向かい、低い声で通話していた。
「……はい、計画通りです。彼女はまだ疑っていない。証拠の在り処も、すべて聞き出せるでしょう。」
玲奈の喉が凍りついた。
味方だと思っていた相手は、最初から裏切り者だったのだ。
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翌朝、片桐は何食わぬ顔で言った。
「玲奈さん、今日は外に出ましょう。記者会見の準備が進んでいます。証拠を持ってきていただけますか?」
玲奈は笑みを作り、うなずいた。
「ええ、もちろん。」
だが心の奥では、別の決意が固まっていた。
――この男を利用して、逆に証拠を暴いてやる。
彼女は胸の内でそっと呟いた。
「次に窮地に陥るのは、あなたよ……片桐。」