光の届くところへ
「どうして、こんなことになってしまったんだろう」
茜色に染まる帰り道、静かに歩く澪の胸には、言葉にならない重さがのしかかっていた。仕事を辞める決断をした日から、時間は少しずつ流れている。それでも、答えは見つからなかった。
誰が悪かったのか。
自分がもっと強ければ、我慢できていたのではないか。
あの時、無理をしなければよかったのか。
布団の中で何度も同じ問いが浮かび、やがてまた眠れない夜になる。そんな日々が、しばらく続いていた。
ある日、近くの図書館の片隅で、小さな詩集が目に止まった。
「風は、倒れた木を責めない。ただ、その木がどこまでも生きようとしたことを、そっと撫でる」
ページをめくる手が止まる。
澪の目から、ひとすじの涙がこぼれた。
――ああ、私は生きようとしていたんだ。
無理をしたのも、頑張ったのも、あの場所で、なんとか笑っていようとしたのも、
全部、「ちゃんと生きよう」とした結果だった。
気づけば、心の奥にあった重しが、少しだけゆるんでいた。
誰かが悪かったわけじゃない。
何かが壊れていたわけでもない。
ただ、あの場所は、今の自分には合っていなかった。それだけのこと。
風が優しく髪を揺らす。
光が射すほうへ、澪は少しだけ顔を上げた。
「今度は、自分を大切にできる場所を選ぼう」
傷ついても、間違えてもいい。
そのたびに、少しずつ本当の自分に近づいていけるなら、それでいい。
それが、「今を生きていく」ということだと、
澪はようやく気づきはじめていた。