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8.

やってしまった!!!


小学校の通知表にも、一度落ち着いて考えてから行動しましょう、って書かれてたのに!!!


自分の成長の無さに冷や汗が、いや、違うな、この冷や汗は、感情を爆発させて、言うつもりのなかった告白もどきをしてしまったことに対する冷や汗だ。


でもさぁ、先生も誘いを断るなら、歳の差なんて事は言わないで、私のことは恋愛対象とは思えないとか、異性として見れないとか、好きになれそうもないとか、そう言う理由が欲しかった。

だって、そう言われちゃったら、そりゃあもうしょうがないって諦めがつく。


なのに、歳の差ってなんなの!?

歳の差カップルなんて、この世の中には山ほどいますし!!!

そもそも11歳差なんて、大して歳の差なくない!?

しかも、しかも、一番許せないのは、素敵な人を誘えってなんなの?

素敵な素敵な、ものすっごく素敵な福島先生だから、なけなしの勇気振り絞って誘ったっていうのにさぁ!!!

もーーーー!!!!!


そう考えたら、やっぱり先生の考え方の方が間違ってる気がする。

間違っていると言うより、説得力に欠けるって言うか。


さっき、逃げ出さないでちゃんと話せば良かった。


携帯を取り出して、先生とのメッセージのページを開く。

だけど、何分経っても、何時間経っても、先生になんてメッセージを送ればいいのか、何も思いつかなかった。

時間が経てば経つほど、あの時の先生の困った様子を思い出して、さっきまでのエネルギーがどんどん萎んでいってしまって、結局携帯をテーブルの上に置いた。


無理だ。

どう頑張ればいいのか、わからない…。




***********




「しおりちゃーん、見て見て!

円香ちゃんから大きな牡蠣が届いたわよぉ!」


仕事から帰ってきたある金曜日、お母さんが発泡スチロールの箱を抱えて玄関にやってきた。


「今年も2箱も送ってくれて、うれしいわ〜。

明日デパートでお返しを見てくるから、しおりちゃんも一緒にいきましょ!」


牡蠣…


!!!


これは、先生に連絡を取るチャンスなのでは!?


あの日から、結局先生に何のメッセージも送れず、悶々とした日々を過ごすこと1ヶ月。

とうとうチャンスが舞い込んできた!


「お母さん、お母さん。

私、この牡蠣をお裾分けしたい人が居るんだけど、良いかな?」


「もちろんよぉ!

新鮮なうちに届けてあげて。」


「えと。

じゃあ、メッセージ送る。」


部屋に入って、正座をして、鞄から携帯を取り出す。

深呼吸を5回して、携帯様に手を合わせてから手に取り、メッセージ画面を開いた。


"先生、お久しぶりです。

以前お話しした牡蠣が届いたので、お裾分けします。

ナマモノなので、できるだけ早くお渡ししたいのですが、都合の良い日時を教えてください。"


1ヶ月前の失言はサラッと無視してメッセージを打ち込むと、えいやっ!と送信ボタンを押した。

既読が付くか付かないか、とてもとても見ていられないので、携帯を裏返しにして手を合わせながら、返信音が鳴るのを待つ。



待つ


ダメだ!!

怖くて待ってられない。


これは精神衛生上、よろしくない!!!

もう、一旦携帯の事は忘れよう!


携帯を自室に置きっぱなしにして、リビングに行くことにした。





夕ご飯を終えて、テレビもしっかり見て、お風呂も歯磨きも終わり、いつもしないパックなんかもしちゃって、ついでにお父さんとお母さんにお休みの挨拶も済ませて、いつもより時間をかけて、ノロノロと自室に戻ってきた。


部屋の扉を開けて、まずはクッションの上に鎮座している携帯様を遠くから眺めてみる。


そしてソロソロとクッションに近づいて、顔認証で開かないように腕を思いっきり伸ばして携帯様を表に向ける。


画面はまだ黒い…。


どうしよう。

開く?

でも、返信のバナーが表示されてなかったらどうする?

先生が私のメッセージをもう見てもくれなかったら、どうする?

見てくれてたとして、既読無視ならどうする?

見てくれたとして、要らないってメッセージきてたら、どうする?


…もし、もし、既読されてて無視されてるなら、その時はもう潔く、きっぱりさっぱりすっぱり諦めよう。


その他の場合は、もう一度だけメッセージを送ろう。


それだけを心の中で決めて、携帯を開いた。



【福島】

"連絡ありがとうございます。

明日のお昼頃、また定食屋に行きませんか?"


うそ!?


え!?

先生から返信が来てる!?

慌ててメッセージ画面を開くと、先生からちゃんと返信が来ていた。


嬉しさと安堵でその場で力が抜けてしまったが、慌てて返信のメッセージを書いた。









改札西口の左側、前回と同じ場所で先生が待っていた。

先生がいる場所から少し距離をとった斜め後ろで立ち止まって、心臓の音を鎮めるための時間を取りながら、先生を観察する。

今日はゆるっとしたカーキのセーターに黒のボトムス、そして無造作な髪とメガネ。

完全オフな格好が、やっぱりど真ん中で、もうやだ。

落ちつかせるための時間だったのに、余計鼓動が速くなってるし!

片想いなの、しんどい。


でも、今日は前回のような失敗は絶対しない。

今日の私は、冷静に、おとなしく、しっかり考えてから行動するをモットーに、先生と対面するのだ。


とりあえず、深呼吸しとこ。

すーはー

すーはー

すー

「佐々木さん。」


「っ!!

先生。」


見つかっちゃったよ!

小走りで先生の元に向かい、保冷バッグを渡す。


「これ、どうぞ!」


「ありがとうございます。」


沈黙…、えと、なんか喋った方がいいのかな。



「これ、ナマモノですね。」


先生が保冷バッグを片手で軽く持ち上げながら、じっと見てる。


「はい。生牡蠣なので。」


「ですよね…。

いくら保冷バッグに入っているとはいえ、これから暖房のついている定食屋さんに持って行くの、良くないですよね。」


「えーと、そうですね?」


福島先生は、一度眼鏡をくいっと上げ直して、こっちを見た。


「これ、冷蔵庫に入れてきたいんですけど、来ますか?」


ん?


「ウチ…。」


ん???


「いえ、決して何かやましいつもりでお誘いしてるのではなく、寒い中外でお待たせするくらいなら、ウチに来ていただいた方が良いのではないかと」


「行きます!」


先生の話が終わらないうちに、やや被せ気味に答えた。

何だったら、やましいつもりで誘って下さっても良いくらいですとも!!!


先生は、私の勢いに少し驚いた顔をしながら、ではどうぞ、と言ってくれた。





「お邪魔します。」


「はい、どうぞ。」


先生のご自宅は、紺色と茶色でまとめられていて、観葉植物なんかも置いてあって、すごくオシャレだった。


「なんか、意外です。」


ポロッと感想がこぼれると、キッチンの冷蔵庫に牡蠣をしまっていた先生が、何がですか?と聞いてくる。


「お部屋の雰囲気です。

勝手に、本棚が壁一面にあって、難しそうな本がぎっしり並べてあるようなお部屋を想像してました。」


「ふふ、それは期待外れでしたね?」


「いえ、素敵です。

この雰囲気、私は好きです。」


「ありがとうございます。

どうぞ座ってください。」


先生がソファの前のローテーブルに緑茶とチョコレートを出してくれた。


「食事前ですが、これくらいなら大丈夫でしょう?」


私はマフラーとコートを脱いで、ソファーの隅に置かせてもらうと、温かいお茶とチョコレートを頂いた。


お茶を頂きながら、牡蠣の殻の剥き方なんかをレクチャーしたり、先生の部屋に陳列されているDVDの話なんかをして、なんだかんだゆっくり過ごしてしまった。


「そろそろ定食屋に行かないと、お昼の時間が終わってしまいますね。」


先生が部屋の時計を見ながら言った。


「わ!

すみません、居心地が良すぎて長居してしまいました。」


慌てて立ち上がると、コートとバッグを掴んで、お部屋を後にした。





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