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7. Side.透

「年の差とかそんなの、もうずっと、ずぅっと前から知ってる。

でも、それでも、先生ともう少し一緒にいたいって思うの、迷惑ですか!?」


走り去っていく後ろ姿を、半ば呆然と見送っていた。


高校生だった頃の佐々木さんが僕に憧れの気持ちを持ってくれていたのは知っていたし、昨日だって、僕と腕を組めて嬉しいと言ってくれたのも、好意を寄せてくれているのも分かってた。


だけど、どう考えても35歳バツイチが、24歳のまだまだこれからの子に手を出せるわけない。


また、過去の恋愛と真琴との結婚の失敗が、次の恋愛への枷になっていることも自覚している。


拳を握りしめたままだった手をボトムスに突っ込み、マンションへと戻った。



***********



佐々木さんが走っていってしまった日から、あっという間に1ヶ月が経った。


学校では今週の授業の確認や、担当している1年生の宿題をチェック、活動点数を付けたりと、相変わらず毎日遅く帰る日が続いている。


そんな中、今日は茶道部の子がお抹茶とお菓子を持ってきてくれた。

疲れているしお腹も空いているので、毎週とても有り難く思っているのだが、最近茶道部の子を見ると泣いて去っていく佐々木さんの顔がチラつくので、少し困っている。


はぁ、とため息をつくと、隣の席の小田原先生が、最近ため息が多いですよ、と言ってきた。


そうだっただろうか。

自分ではそんなつもりはなかったけれど。


「久しぶりにメシでも食いに行きましょうよ。」


小田原先生が、僕と先生の前にいた飯塚先生にも声をかけて、3人で食事をしに行った。



「で、どうしたんです?」


おしぼりで手を拭きながら、小田原先生が僕に尋ねてきた。


「なにがですか?」


「いや、福島先生、最近様子がおかしいですもん。

ねぇ、飯塚先生?」


「確かに、最近はよく心ここに在らずな時がありますよね。」


僕たち3人は歳が近いので、普段から何かと仲良くしているし、僕が離婚を決めた時も、この二人には先に話をしたくらいだ。

だけど、今の自分の気持ちはなかなか話すことができなかった。


「最近、あまりよく眠れないだけです。

それより飯塚先生は、今日僕たちとご飯食べにきて大丈夫だったんですか? 

奥さん、ご飯作って待っていてくれているんじゃないですか?」


「実は…。

嫁さん、今実家に帰ってるんですよ。」


「え?

ケンカですか?」


「いや〜、それが!!!

先日、やっと安定期に入ったんで!」


僕と小田原先生は、その言葉にとても驚いて、その後いっぱい祝福の言葉を贈った。

飯塚先生のところは、長いことずっと子どもを望んでいたのだが、なかなか上手いこと育ってくれなくて、何度も涙を飲んでいたのだ。 

安定期に入るまでずっと気を揉んでいたのだろう。


そんな彼らの苦悩を知っているから、僕も小田原先生も嬉しくて思わず涙ぐんで、飯塚先生の肩や背中をバンバン叩いてしまった。


明日も仕事があるのは分かっているけれど、どうしても祝福したくて、みんなで一杯だけ乾杯した。



「飯塚先生の奥さんて、実はここの卒業生だったって本当ですか?」


小田原先生の質問に、飲んでいたビールを吹き出した。


「いや、まあ。

あまり大きな声では言えないですけど。」


「え、まさか、生徒と付き合ってたんですか?」


「いや、まさか!

でも、俺もまだ若かったんで、嫁が在校生だった頃いっぱいアプローチしてくれるのは、嬉しかったですけどね。

けど、もちろん付き合うなんて、そんなまずい事する訳ないでしょ。」


「では、お付き合いはいつ頃からされたんですか?」


その質問に、飯塚先生が顔を赤くしてテーブルに突っ伏した。


「…卒業後も何度かアプローチされまして。

でも流石に未成年はダメだろうと曖昧なままでいたんですけど、嫁が20歳になった日に。」


まじか。


俺が驚いていると、小田原先生がもっと衝撃的な発言をしてきた。


「いやいや、飯塚先生に限らず、元教え子と結婚した先生なんて、他にも居ますよね。

数学の鈴木先生とか、生物の稲盛先生とか、教頭の大久保先生も確かそうでしょ?

女子校あるあるですよ。」


まじか!


「え?

福島先生、知らなかったんですか?」


「ええ。

初耳です。」


ええ!?と二人に驚かれてしまったが、こちらこそ、ええ!?と言いたい。


小田原先生と飯塚先生は、さらに他の先生の話で盛り上がっていたけれど、僕はなんだか苦しくなってしまい、黙々とご飯を飲み込んだ。






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