6.
ある!
ホントにある!!
二度見、三度見したけど、確実にある!!!
【福島先生♡】と登録された番号が、私の携帯の連絡先の中に確かに入っていて、起きて早々ベッドの上でジャンプした。
昨日の出来事は夢じゃなかったんだ!
すごく怖い思いもしたけれど、先生が急いで駆けつけてくれた姿は、ホントにヒーローみたいだった。
私がコンビニにいる間も、怖くないようにずっと話しかけてくれてたし。
先生の好きなところに、頼もしいから好きってポイントも追加されちゃったよ、もーー。
どうする?
お礼のメッセージ、送っとく?
それとも、お礼のメッセージ、プラス何かお礼の品を渡す?
とりあえず、ちょっといくつかお店を見てみて、良さそうなものがあったら渡そうかな。
うん、そうしよう!
早速パジャマから外出着に着替えて、お買い物に出た。
お礼ならデパート一択という佐々木家家訓に従い、一番お世話になってるデパートにやってきた。
何がいいかなぁ。
重くなりすぎず、ちょっと気が利いていて、男性向きの、お礼として相応しいもの。
香水、ハンカチ、カードケース、ネクタイ、インテリア小物…。
どうしよう、素敵なものはいっぱいあるのに、どれもピンとこない。
相手の趣味に合ったものを贈りたいけど、そもそも先生の趣味がいまいちわからないし。
良さそうなフロアを何回も見て回ったけれど、なかなか見つけることができなかったので、最終手段の食品フロアに行く。
日持ちのするお菓子にしようかなぁ、とフラフラ見て回ってたら、老舗和菓子屋さんの桜餅が目に入った。
桜の葉っぱが食べられなかった小さい頃の先生が、葉っぱを剝いている姿を想像して、クスッと笑ってしまう。
食品フロアをぐるっと一周して、結局チーズが練り込んであるクッキーにした。
日持ちするし、男性へのプレゼントにもよく選ばれていて、お酒にも合うとお勧めされたのが決め手。
綺麗に包装してもらったクッキーを受け取った後、先生にメッセージを送った。
"こんにちは。
昨日はありがとうございました。
お礼がしたいので、近日中で空いてる日があったら教えてください。"
既読マークがすぐについて、先生からの返事が届いた。
"お礼なんて気にしないでください。
あの後、しっかり眠れましたか?"
"ご心配いただき、ありがとうございます。
先生のおかげで、ぐっすりでした。
お礼ですが、実はもう購入済みなので、是非受け取っていただけたら、と思います。"
"平日はいつも帰りが遅いのです。
佐々木さんの退勤時間とは合わず、お待たせすることになるので心配です。"
"じゃあ、今日はどうでしょう?
今、ちょっとだけお時間ありませんか?
お渡しするだけなんで!"
"今日なら大丈夫です。"
"じゃあ、先生の最寄駅に行きます。
丁度帰り道ですし。"
"分かりました。
では改札西口を出た辺りで待ち合わせましょう。"
"了解です。
20分でそちらに行けますけど、大丈夫ですか?"
"構いませんよ。
では、20分後に。"
やったーー!!!
昨日に引き続き、今日も会えちゃう!
嬉しい!!!
急いで化粧室に寄って、軽くメイクを直してから電車に乗った。
改札西口から出てすぐの左側に先生は立っていた。
渋い柿色のカーディガンにモスグリーンのボトムスで、しかもメガネまで掛けてて、いつもと雰囲気が全然違う。
やだ、ギャップにキュン死しそうなんだけど!?
とりあえず、呼吸を整えるために一旦(5回くらい)深呼吸してから先生に声をかけた。
「せーんせ!」
「ああ、佐々木さん。
早かったですね。」
「先生こそ、お休みのところすみません。」
「大丈夫ですよ。」
「あの、こ」
ギュルルルル
これどうぞ、と渡しかけたところでお腹がなっちゃった!
朝起きて何も食べないで出掛けたし、デパートを見て回ってるうちに、ちょっと遅いくらいのお昼時間になっちゃってたのに、お買い物に夢中すぎて気が付かなかった!!
ひゃ〜、恥ずかしい!
顔を赤くして下を向いてると、先生がお昼ご飯を食べに行きましょうかって誘ってくれた。
「僕、まだお昼食べてないので、よかったら。」
なんてジェントルマン!!!
もう、好き!!!
「はい。」
熱くなったほっぺたに手を当ててぺこりと頭を下げたら、先生はクスッと笑った。
「おいしい定食屋があるので、そこはいかがですか?」
「是非!」
わーい!
***********
先生が連れてきてくれたのはご夫婦で経営されている定食屋さんだった。
お水を運んでくれた奥さんと親しく話しているところを見ると、先生の行きつけのお店らしくて、そんな場所に連れてきてもらえたのがすごく嬉しい!
先生のテリトリーに入れてもらえたみたい。
「先生はいつものね?
ご注文、何にしましょう?」
奥さんが私にも聞いてくれたので、大好物のカキフライ定食を頼むと、奥さんは一瞬先生を見てから、少々お待ちくださいねと言って旦那さんのところにオーダーを通しに行った。
その姿を見送ってから、先生にさっき買ったクッキーを差し出して、昨日はありがとうございましたって伝える。
先生はそれを受け取りながら、昨夜、あの車の色や車種、ナンバーを警察に知らせたと教えてくれた。
そして今朝警察から連絡があり、この数週間の間で不審な黒い車がうろついているという情報が何件か寄せられていたらしく、車種やナンバーの情報提供を感謝されたこと、またしばらく夜の見回りを強化することを伝えられたそう。
「とはいえ、あまり遅くならないように気をつけてくださいね。」
「はい!」
それからしばらく雑談をしていると、私たちの目の前に美味しそうなカキフライ定食が運ばれてきた。
「おまちどうさま〜。」
わ!
先生もカキフライ好きなんだ!!!
さっき奥さん、いつものって言ってたもん。
共通点、はっけーーーん!
思わずニマニマしてしまう。
「先生もカキフライがお好きなんですね!
私も冬の間は必ずカキフライを頼むんです。」
「そうでしたか。
僕も、牡蠣の季節になるといつも頼んでしまします。」
「うちの従兄弟が、牡蠣の養殖で有名なところに嫁いでて、毎年冬になると殻付きで送ってくれるんです。
多分もうすぐ届くと思うので、今度お裾分けしますね。」
「いや、そんなの悪いですから。」
「悪くないです!
すっごく美味しいから、楽しみにしてて下さい。」
「ふふ、ありがとうございます。
では、熱いうちに頂きましょうか。」
「はい!いただきまーす!!!」
さすが先生の行きつけの定食屋さんだけあって、サクッとして、ジューシーで、とっても美味しい。
先生と一緒だから、美味しさが1.5倍くらいは増えてるにしても、ホントに美味しくてパクパク食べた。
「ご馳走様でした。
とってもおいしかったです!」
お会計を済ませ奥さんにそう挨拶すると、また来てねと言ってくれたので、にっこりしてハイって答えた。
外に出て、駅に向かって歩いているけど、もう少し先生と居たいなぁって気持ちがどんどん膨らんでる。
コーヒーでもって誘ったら困るかな?
ダメ元で誘ってみようかな…。
「先生、まだお時間あるならコーヒーでも飲みに行きませんか?」
ドキドキしながら先生の返事を待つ。
「…佐々木さん。
僕は君より10以上歳が離れています。
君はまだ若いんだから、こんなおじさんよりもっと素敵な人を誘うべきだと思います。」
「!」
断られちゃった…。
でも、10以上歳が離れてるからって何?
もっと素敵な人って何???
言われた言葉に納得がいかなくて、よりによって先生にそんな事言われたのが悲しくって、それが怒りに変わって感情が乱れる。
「年の差とかそんなの、もうずっと、ずぅっと前から知ってる。
でも、それでも、先生ともう少し一緒にいたいって思うの、迷惑ですか!?」
先生を睨みながら、告白みたいなセリフを言ってしまった。
言った後で、自分が何を言ったのか気付いて、じわっと涙が滲みあわあわするけど、言ってしまったものは仕方ない。
先生の反応を待つけど、先生は拳をキュッと握りしめたまま下を向いていた。
あぁ、これはやっぱりダメなやつだ。
困らせちゃった…。
先生に何か言われたら、今よりもっと惨めになるのがわかって、先生の返事を聞かずに駅に走り出してしまった。
先生の断りの言葉から、逃げてしまった…。