1.
ポロンッ!
携帯から通知音が鳴った。
優奈: "久しぶり!同窓会のハガキ、届いた?"
高校時代からの友人の優奈ちゃんからグループにメッセージが送られてきた。
さくら: "うん。行く?"
優奈: "どうする?みんな行くなら、行くけど。"
愛未: "しおりは?福ちゃんに会いたいんじゃないの?"
愛未ちゃんからの問いかけに、メッセージを打とうと思っていた手が止まる。
さくら: "福ちゃんといえば、知ってる?
離婚したらしいよ!"
優奈: "え?ま?"
さくら: "らしいよ、知らんけど。"
優奈: "知らんのか〜い!"
愛未: "しおり、チャンス!"
"チャンスって言ってもなぁ。卒業してから何年経ったと思ってんの?"
愛未: "6年でしょ。けど、あんなに福ちゃん、福ちゃんうるさかったじゃん。"
優奈: "よし、福ちゃん慰めるためにみんなで同窓会に出よう!!!"
さくら: "OK"
愛未: "りょ"
"わかった。"
グループトークが終わり、ベッドに寝っ転がった。
福島先生、離婚したんだ。
あんなに幸せそうだったのにな。
***********
「今日も福島先生見れた。
はぁ、しあわせ。」
「しおりの幸せは簡単でいいねぇ。」
さっき廊下を歩いてく福島先生を教室からチラッと見かけたのだ。
福島透先生は現国担当で、今年29歳になる。
身長も顔も普通だけど、なんせ声が良い!!!
そして、丁寧でのんびりとした話し方が、もうホントにツボなのだ。
その口調のせいで寝てしまう生徒が多くて福島先生は悩んでいるらしいが、是非とも改めないでいただきたい。
現国は福島先生が担当になった1年の時から、私の一番得意な科目になったし、授業中はノートを取るせいで先生の声を聞き逃したりしないように、予習はバッチリしてきている。
あまりに国語が好きになりすぎて、大学は附属の日本文学科を志願する予定。
本当は先生の出身大学を狙いたかったけど、ちょっと私にはハードルが高そうだ。
だって、現国以外はあまり勉強に身が入らないんだもん。
私の福島先生への憧れはクラスのみんなも知っていて、福島先生にノートを届ける時とか、プリントを職員室まで取りに行かなきゃいけない時とか、みんな私に、代わりに行く?って声をかけてくれる。
優しい!!!
「福ちゃんなんて普通だよ。
女子校マジックに掛かって、カッコよく見えてるだけじゃないの?」
彼氏のいるさくらちゃんや優奈ちゃんからは、彼氏の友達を紹介するって何度も誘われてるけど、同年代の男の子はなんか怖いからいつもお断りしてる。
愛未ちゃんに、しおりは推し活してるんだもんねと言われて、うんと頷く。
先生への憧れは、推しへの想いに近いのだ!
「そういえは、今日部活あるね。」
愛未ちゃんがニンマリしながらこっちを見た。
「やった〜〜!
今日はお話しできちゃうかも!」
ぴょんと飛び上がって、愛未ちゃんの手を握る。
私と愛未ちゃんは茶道部に入っているのだが、部活が終わると職員室に残っている先生にお菓子とお抹茶を差し入れするのが茶道部の伝統なのだ。
で、福島先生は和菓子とお抹茶が好きらしくて、毎週楽しみにしてくれている。
今日も絶対、美味しく点てる!!!
決意を新たに拳を握った。
***********
「失礼します、茶道部でーす。」
部員数名でお盆に乗せた和菓子とお抹茶を職員室に持って行くと、今日は6〜7名の先生方が残っていた。
福島先生も机に座って仕事をしていたが、こちらの入室の声を聞いて顔を上げた。
はぁ、尊い。
「先生、どうぞ。」
もちろん福島先生へ渡すのは私の役目だ。
ありがとう、みんな。
「ああ、今日はお抹茶がいただける日でしたね。
嬉しいなぁ。」
ホッとする笑顔を浮かべて、先生はお盆を受け取った。
「今回のお菓子は豆まんじゅうですよ。
先生はどんなお菓子が好きですか?」
「そうですねぇ。
何でも美味しくいただきますけど、桜餅なんかは少し特別な感じがします。」
「特別?」
「ええ。
桜の葉っぱ、しょっぱいでしょう?
子どもの頃はあれが食べられなくて。
でも、いつの頃からかそれを美味しく感じるようになりまして、そこで自分が大人になったなぁと。」
「なるほど!
それで言うと、私は銀杏です!
最近、美味しく食べられるようになりました。」
「おや、佐々木さんも大人になったんですね。」
「えへへ、そうみたいです!
じゃあ、また後でお盆を下げにきますね。
どうぞごゆっくり!」
今日は先生の思い出話が聞けちゃった!
嬉しすぎる!!!
ニマニマしそうな顔を必死で引き締めて、職員室を静かに後にした。
そして、廊下ではもちろんスキップした。