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勤め始めたルーカスは多忙を極めた。新人は全ての仕事を一通り経験してから部署が決定する。
同期には貴族学校で初めての試験で負けた伯爵令嬢と、その婚約者の侯爵令息がいる。一時期濡れ衣で侯爵令息に睨まれていた事は一生忘れない。
割と根に持ちやすいルーカスであった。
一年後、ルーカスは財務部に配属された。計算能力は勿論の事、王国の経済の動向を分析し学ぶ姿勢が評価された。
財務官のトップは財務大臣である。それに続くのは財務部部長である。ルーカスは財務大臣を目標にした。
(経済でこの王国を支えよう。)
ルーカスの家は公爵家なので、王家とは深い繋がりがある。民の事を考え公務を行う尊敬する王家であり、両親にはこの王国の為になるよう努力しなさいと育てられた。家は兄が継ぐので、ルーカスは婚約者もおらず割と自由に好きな事が出来た。
さらに一年が経ち二十歳になったルーカスは、重要な仕事も任されるようになり、上司である財務部部長からは現場を視察してさらに視野を広げる事を命じられた。二泊三日で近隣の貴族の領地に赴き、財政状況や街の様子などを視察する事になった。一人で視察するのかと思っていたら部長も同行するらしい。
部長は穏やかな雰囲気を持つが、判断は的確、バリバリ仕事をこなし、何事にも物怖じしない尊敬できる上司だ。さらに部長は領地を持つ伯爵家の当主である。視察は伯爵家の領地に決定し、伯爵家に滞在する事となった。今は夫人が領地経営をしているようだ。
(ちゃっかりしてるな。)ルーカスは苦笑いした。
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十八歳になった現在、セシリアは常に疲れており横になっている時間が増え、領地経営の手伝いもままならなくなっていた。心なしか猫になっている時間が長くなっているような気がする。
将来の希望も見出せないセシリアは無気力に過ごしていた。
そんな時、父から部下を連れて領地に戻ってくると手紙が届いた。
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ルーカスは部長と共に王都を出発した。東に馬車で二時間ほどで到着するらしい。馬車の中から外を眺める。自然が豊かであるが、きちんと道は整備され荒れている土地もない。所々休憩所もあり、綺麗な街並みが現れた。財政が豊かであるのは一目瞭然だった。
まずは街を視察した。人々の身なりは良く活気がある。この領地の特産品の一つは鉱物だ。採取出来る山がありさらにそれを加工できる工場も整備されている。
もう一つの特産品は乳製品である。割と冷涼な気候の為、酪農に向いている。部長は店でアイスクリームを買っていた。紙袋のものは家族の土産だとニコニコしながら手に持ったアイスクリームを渡してきた。
「うちの屋敷はここから近いから食べながら向かおう。」と部長は言った。
「いただきます。」アイスクリームを受け取りいただく。「とてもまろやかで美味しいです。」と言うと部長は嬉しそうに「そうだろう。」と頷いた。
小高い丘を登ると立派な屋敷が見えてきた。