⑤
無事に父達と合流したセシリアは涙を流している父に抱きしめられた。
「心配かけてごめんなさい。」セシリアは言った。
「見つかってよかった!突然の出来事で驚いただろう。私も油断してしまった。怪我が無くて何よりだ。」
「人間に戻ったから疲れているのではないか?さあ、りんご飴を食べて帰ろう。」
優しい父に心がじんわりしたセシリアだった。
翌日、セシリアは父と共に領地に戻った。父は一月のうち二、三日妻と一人娘がいる領地に帰る。伯爵家の跡を継ぐ前から王都で財務官として働いており、領地は母が管理をしている。
帰りの馬車の中でセシリアはルーカスの事を思い出していた。
(とても話しが上手で楽しかったな。)
(気遣いがあって優しくて。)
(かっこよかったし。)
(…学生生活が羨ましいな。)
などとぼんやり考えていた。
王都から戻ってきたセシリアは、ルーカスから学校の話を聞き、人間でいるうちは何かしら役に立ちたいと思い家庭教師を付け、母から学びながら領地経営の手伝いをしていた。
学校に通える歳になる頃には、書類仕事など一人でもこなせるようになっていった。
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一方ルーカスはその日から黒髪の少女の事が頭から離れなかった。ほんのひと時の出来事であったが、あんなにも自分をさらけ出せた。普段ルーカスは本心を見せるのが苦手だ。しかし彼女との会話はとても心地良かったのだ。
(彼女の前では素直になれた。)
(また会いたい。)
ルーカスは道行く黒髪の女性を見てはそう思い、似た後ろ姿の女性がいれば、声をかけたりしていた。
そんなルーカスは同級生から『女癖の悪い宰相令息』などど噂されるようになった。
(黒髪の少女を探しているだけなのに。)
しかしルーカスは反論しなかった。確かに声をかけてはいるが、違っていたら謝罪して終わる。ただそれだけだったからだ。
(噂好きの者達が勝手に尾ひれをつけているだけであろう。その内飽きるだろう。)
その後、卒業するまで言われるとは思ってもみなかったルーカスであった。
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黒髪の少女と出会ってから三年間努力をし、学校をトップで卒業した。
尊敬する父の背中を見て育ち、幼い頃から王国ひいては王家を支える仕事をする事が目標であった。
無事文官試験に合格し、目標に一歩近づいた。だがどこに配属されるかはまだわからない。それでも勤め始めるまでは勉強を怠らなかった。
その間も黒髪の少女の事は頭の片隅にあった。毎日自然公園を通っていたので、公園の中のルートを変え探してみたりもした。
(もう会えないのだろうか。)
(貴族令嬢を調べてみたがわからなかった。)
(そもそも年齢もわからない。)
(平民の娘だったのだろうか。)
そうしているうちに、初めての王宮勤めの日がやってきた。