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 いつもとは違い、ものすごい勢いで走ったので黒猫セシリアは疲れてしまった。



(人間に戻っちゃうかも…)



 そう思うと同時にセシリアは人間の姿に戻った。




(どうしよう。迷子になっちゃった…)

(誰もいない…)

(ここはまだ公園の中かな?)

(動き回らない方がいいかも。)




 疲れてしまったセシリアは近くにあったベンチで休憩していると、前を男の人が通りかかった。





(何でこんな所に少女が一人でいるのだ?)

(大丈夫なのか?)

(具合が悪そうだな。)



 宰相令息ルーカスは通り過ぎようとしたが、心配になり声をかけた。




「お嬢さんいかがされましたか?体調が優れませんか?」なるべく丁寧に話しかける。




 少女が顔を上げた。薔薇色の瞳に透けるような白い肌。ルーカスは目を奪われた。




 一瞬驚いたようだったが「大丈夫です。疲れたので休憩しています。」と言った。




「おひとりで?」




 少女は静かに首を横に振った。

「家族と来ています。噴水のところにいたのですが、はぐれてしまいました。」




「では、噴水まで案内しましょう。」




 少女はまた静かに首を横に振った。

「探していると思います。動きまわらない方が良いかもしれません。」





「そうでしたか。では迎えがくるまで一緒にいても?具合が悪くなったら大変だ。」


「私は近くの貴族学校に通う学生のルーカスと申します。怪しい者ではございませんのでご安心を。」念の為にルーカスは学生証を見せながら自己紹介し、一つ隣のベンチに腰掛けた。




 セシリアは領地でほぼ人目に付かず生きてきた。自分の事を知られるのは良くないのではないかと思い名を告げなかった。



ーーーーーーー



 黒髪の少女の素性はわからないが、とても話が弾んだ。目をキラキラさせながら楽しそうに話を聞いてくれる。不思議と何でも話したくなってしまう気分になる。自分の事を一方的に話してしまい、彼女はほとんど自分の事を話さなかった。




 ルーカスは学校生活での様々な事を話した。さらに今日の試験の結果で自分が不甲斐なくまた傲慢になっていた事、それで早退した事も話をした。




 話を聞いてくれた黒髪の少女は言った。




「ご自分の目標に届かなくても、健康で学校に通えるだけでもよいと思います。それに体調を心配して声をかけて下さり、お優しいと思います。」




「優しい?」思いがけない言葉にルーカスは目を見開いた。




「はい。見知らぬ者を心配して下さり、決して傲慢ではないと思います。」セシリアは微笑んだ。




(優しいなんて初めて言われた。)

(こんなに話がしたいと思うなんて。)

(彼女の話も聞きたい。)

(学校に興味があるみたいだ。)

(校庭だけでも案内してみようか。)




 ルーカスは黒髪の少女が家族を待っていることをすっかり忘れ、学校見学を提案しようと思っていたところに大きめのバスケットを持った一人の女性が現れた。




「お嬢様!」




「マリア!」黒髪の少女はゆっくり立ち上がった。




「あぁ。見つかって良かったです。」マリアと呼ばれた女性は目に涙を溜めて言った。





「その方は?」マリアという女性はルーカスを見て言った。




「待っている間に話し相手をしてくださったの。」




「近くの貴族学校の学生でルーカスと申します。」ルーカスは立ち上がり自己紹介をした。




「これはこれは、ありがとうございました。」マリアという女性は深く頭を下げ礼を言った。そしてすぐ少女の背を支えながら連れて行ってしまった。




(どこかの令嬢かな。)

(簡素だが仕立ての良い服を着ていた。)

(言葉遣いもしっかりいていた。)

(もっと話がしたかった。)

(せめて名前だけでも聞いておけば良かった。)




 ルーカスは離れていく二人の後ろ姿を見ながら思った。






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