③
一方その頃。。。
宰相家の次男ルーカスは貴族学校に入学して半年が経ち、初めて早退した。体調不良ではなく精神的ショックな出来事が起きたからである。
ルーカスは頭脳明晰だと自負している。さらにバーガンディの髪色に蜂蜜色の瞳で顔もいい、すらっとしているが、体力にも自信がある。学校に入学してから他人と比べる機会が増え、決して態度には出さないが、割と心の中で傲慢になっていた。
ところが初めての試験で自信を持っていたが、蓋を開けてみれば自分は二位だった。一位は本ばかり読んでいる伯爵令嬢だった。
生まれて初めてといえる敗北だった。
その日は学校に体調不良で早退すると届出をした。宰相家は学校から自然公園を抜けて徒歩20分のところにある。ルーカスは体が鈍らないよう毎日歩いて通学している。
緑豊かな自然公園は芝生の広場もあれば、立派な噴水もあり、季節に応じた花々も植えられ、木々が生い茂り、ゆったりするのに最適の場所だ。ベンチもあちらこちらにある。平日は人は少ないが、休みの日はデートスポットになり沢山の人が訪れる。
「あぁ。自然は癒されるな。」ルーカスがつぶやきながら歩いていると、木々が生い茂る少し日陰になったベンチに艶やかな黒髪の少女が一人で俯き座っているのが目に入った。
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黒猫セシリアは父と二人で噴水前のベンチで日向ぼっこをしながらゆったりしていた。
「にゃー」(素敵なデザインの噴水ね!)
「にゃにゃー」(水の音が癒されるわ)
「セシリアはここが気に入ったかい?」
「にゃ!」(とても!)
「そうか、それは良かった。」父は何と無く黒猫セシリアが言っている事がわかるらしい。
「今ケインとマリアにりんご飴を頼んだから、戻ってきたら食べよう。」
「にゃにゃにゃにゃにゃ?」(りんご飴?)
「小ぶりなりんごに飴がかけられ串に刺さったお菓子だ。ガブリと齧って食べるみたいだぞ。若い子に人気らしい。近くに屋台があるんだ。」
「にゃにゃ!」(楽しみ!)
「やっぱりセシリアは可愛いなぁ。」
父はさらに目尻が下がった。
そのようにのんびりやり取りをしている時、いきなり大きな鳥が噴水めがけて飛んできた。あまりに突然だったので黒猫セシリアは驚き、ぴょんと飛び上がって本能のまま逃げてしまった。
「セシリア!」父の呼ぶ声は届かなかった。