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日常編2(高校生活の幕開け)

朝の通学路。健太はいつものように歩いていた。


「すみません!どなたか!」


ふと見ると、交差点の先で、スーツ姿の男性が困惑した顔で立ち尽くしている。


(……嫌な予感がする)


見て見ぬふりをすれば、普通に学校に行ける。しかし、無視するのは気分が悪い。


「どうしました?」

「財布を落としてしまって……確か、このあたりで」

「それは大変ですね。どんな財布ですか?」


「黒い革の二つ折りで、中には免許証と——」


そのとき、曲がり角の先から、小走りでやってくる少年の姿が目に入った。手には黒い二つ折りの財布。


「それ、君のか?」

「えっ、あっ……これは……」

少年の表情が一瞬こわばる。


健太は確信した。


(これ、絶対ややこしくなるやつだ……)





混雑する朝の電車。健太は吊革につかまりながら、ぼんやり窓の外を眺めていた。


そのとき、異様な空気を感じる。


近くに立っていた女子高生が、青ざめた顔で身じろぎもせずにいる。


(……おいおい、またかよ)


彼女の隣には、中年の男。微妙に腕が動いている。


健太は、一度だけ深く息を吐いた。

「すみません、ちょっと失礼」


あえて強引に間に割り込む。


「……ッ!」

男の手が、咄嗟に引っ込んだ。


「何だ、君は?」

「狭いんで、詰めさせてもらいますね」


男の顔が険しく歪む。だが、次の駅で彼はそそくさと降りていった。


女子高生が、震えた声で「ありがとう」と言った。





次の日から、彼女は、なぜか健太の乗る車両に合わせてくるようになった。


「健太くん、好きです!」


放課後、校門の前。突然の告白。


「えっ、いや……あの……」

困惑する健太。告白してきたのは、電車で痴漢から助けた女子高生だった。


「お礼がしたくて、探してました!」

「気持ちはありがたいけど……」


健太は苦笑しながら返すが、彼女は真剣なまなざしで続ける。


「私、本当に運命だと思ったんです。あの時、健太くんが助けてくれなかったら……!」

「いや、困ってるのが見えたから、普通に助けただけなんだけど……」


「でも、私にとっては違うんです! あんなふうに颯爽と助けてくれて、まるで——」

彼女は目を輝かせながら言い切った。


「——王子様みたいでした!」

(王子様!?)


健太は思わず心の中で頭を抱えた。


そして、その日から——

暫くの間、健太のあだ名は「王子様」となり、助けた彼女は健太のことを「運命の人」だと信じ込んで、なぜか校門前で待ち伏せするようになった。


(何でこうなるんだよ!!)





そんなトラブル気質の健太にとって、4つ上の兄・久住渉くずみわたるは昔から「何でも知っていて、色々なことを教えてくれる頼れる兄貴」だった。


渉は高校3年の時、サッカーの試合中に大怪我を負い、それ以来自己評価が低くなった。

その分、他者への評価が相対的に高くなる所はある。


しかし、それでも兄は昔から健太に対して 「健太は俺なんかよりずっと凄い男になる」 と言い続けてきた。


健太自身は、自分のことを「特別な才能があるわけじゃない」と思っていたが、兄のその言葉には不思議に説得力があった。

兄には「人を教え導く力」がある、と健太は常々思っている。


——兄ちゃんだって十分凄いと思うけどな。


渉は怪我をして以降、サッカーの道を諦めたが、その後は名の知れた大学に進み、勉強やバイトに打ち込んでいる。


兄は国民的女優・高宮裕奈たかみやゆうなと小・中学校が一緒だったらしい。


高宮裕奈といえば、今やテレビや映画で見ない日はないほどの超人気女優。

その彼女が、兄貴の同級生だったというのは、ちょっと驚きだ。


そういえば、昔……

まだ自分が幼稚園に通っていた頃、兄の同級生の女の子が家に遊びに来たことがあった。


明るくて優しくて、でもどこかキラキラした雰囲気を持った女の子。


あの時の女の子が、あの国民的女優・高宮裕奈だと知ったのは、つい最近のことだった。


とはいえ、兄とは今でも普通に話すし、仲は良い方だ。


むしろ健太は、密かに兄のことを 「昔も今も、やっぱり凄い人だ」 と思っていた。




春の陽射しが降り注ぐ校門の前。

新入生たちが緊張と期待を胸に、それぞれの道を歩き始める。


久住健太もその一人だった。

とはいえ、特に緊張しているわけでもない。


「まあ、高校って言っても中学とそんなに変わんないだろ」


のんびりとした足取りで、新しい学校へと踏み入れる。


入学式を終え、新しい教室で自分の席に座った。

少し緊張しつつ、机の中に適当に荷物を押し込む。


——と、その時。

前の席の男子が、くるりと振り向いた。


「よっ」

飄々とした声とともに、細身の男がニコニコしながらこちらを見ている。


「俺、九条明くじょうあきら。よろしくな」

「……ああ、よろしく。俺、久住健太」


「へえ、出席番号順に並んで同じ“く”だから俺の後ろの席なのか」

明は妙に納得したように頷くと、口元に軽く笑みを浮かべた。


「ちょうどよかった」

「ちょうどよかった?」

不思議に思って聞き返すと、明は肩をすくめる。

「いや、俺さ、後ろの席のやつがどんなやつか気になってたんだよね」

「そんなもんか?」

「そんなもんさ」


健太は適当に相槌を打ちつつ、九条明――もとい明のペースに巻き込まれつつあることを感じた。


「でさ、久住はどこの部活入るんだ?」

「ああ、剣道部かな。小学校からやってたし」

「おっ、奇遇じゃん。俺も剣道部入るつもりだったんだよ」

「へえ、そうなのか」

「うん。……ま、ガチでやるつもりはないけどね」

「おいおい」


初対面にもかかわらず、どこか気の置けない雰囲気が漂う。

こうして、健太と明の高校生活は幕を開けた。

健太の兄の久住渉は拙作「二人で輝くとき」の主人公です。

この時はまだ高宮裕奈のマネージャー補佐になっておりませんが、健太と話して最近同級生であることをしゃべってます。

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