表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

運命の選択編3(試行錯誤)

ループの終わりが見えない。


明から真実を聞かされた後も、文化祭の終わりとともに世界は巻き戻される。


何度も、何度も——。


朝のアラーム音。

窓から差し込む同じ朝日。

母親の「早く起きなさい」という声。

剣道部の練習、授業、昼休み、放課後の時間。


どれだけ繰り返しても、文化祭が終わるとすべて最初に戻る。


もう、何度も繰り返しすぎて、ある程度の流れは把握していた。

だが、すべてが同じというわけではなかった。


ループするたびに、微妙な違いが生じている。


発生する出来事もあれば、発生しない出来事もある。

だから、健太自身、何度ループしても、すべての出来事を把握することはできなかった。


「確定された未来」というわけではない。


ただ、繰り返すうちに——発生する頻度が高い出来事と、低い出来事は分かるようになった。


例えば、剣道の試合はほぼ毎回発生する。

しかし、昼休みに誰と会話するかは、回によって変わる。


席替えの時期、席替えの場所、欠席する人間、更に麻奈美やクラスメイトが話す内容等も、少しずつ違っていた。


あの時、明は言った。

「それに、もし全く同じルートが続けば、お前はまた同じ選択をして、永遠にループし続ける可能性がある。だから、ループ世界も少しずつ変えてるんだよ」と。


世界はループする度に少しずつ変化している。


巻き戻るわけではない以上、この世界は完全無欠の世界ではない。

——ならば、どこかに抜け道があるのではないか?


このループの「本当のルール」を見つければ——抜け出せるかもしれない。


ふと兄・渉の言葉が脳裏に蘇った。


「お前の行動が少し変わるだけで、ループ世界の流れも少しずつ変わってるかもしれないってことだよ」


渉が話してくれた、「バタフライ効果」。

ーーほんの小さな違いが、時間をかけて大きな変化を生む。


(もし、俺が大きく違う行動をすれば……結果もより大きく変わっていくんじゃないか?)


“確定された未来”というわけではない。

ならば、どこかに“抜け道”があるのではないか——?


そう信じて、健太は行動を開始した。




「……おはよう、健太くん!」


朝、教室に入ると、いつも通り陽菜が笑顔で手を振る。

健太は、いつもなら何気なく返していたその挨拶を、無視した。


「……え?」


一瞬、陽菜の表情が戸惑いに揺れる。

だが、すぐに笑顔を作り直して近づいてきた。


「ねえ、どうしたの? 何かあった?」

「……別に」

「別にって……なんか変じゃない? いつもみたいに話そうよ」


普段の健太なら、適当に流して会話していただろう。

だが、今回は徹底して距離を置くことにした。

昼休みも、放課後も、意識的に陽菜を避け、極力関わらないようにする。


その結果——陽菜は明らかに不審がった。

何度も話しかけてきて、健太の態度の変化を問いただしてくる。


「私……何かしちゃった?」

「……いや、何もないよ」


「嘘だよ。だって、健太くん、全然目を合わせてくれない」

ついに涙ぐみながら言われたとき、さすがの健太も罪悪感を覚えた。


だが、それでもループを抜けるためには仕方ない——そう思った。




「ちょっと健太、どういうつもり?」


放課後、昇降口で待ち伏せしていた麻奈美が、睨みつけるような視線で健太を見た。

その隣には、目を赤くした陽菜がいる。


「……何が」


知らないふりを決め込もうとしたが、麻奈美はそれを許さなかった。


「何が、じゃないでしょ!アンタ、最近陽菜に冷たすぎるんだけど!?何かあったならちゃんと言いなさいよ!」


「別に、何も」

「嘘つけ!」

バンッと音を立てて、麻奈美が靴箱を叩く。


陽菜はそんな麻奈美を制するように腕を引いたが、彼女はまったく引き下がる気配がなかった。


「陽菜がどんな気持ちで健太に話しかけてたか、分かってんの!?それをずっと無視して、距離置いて……そんなの、陽菜が可哀想でしょ!」


「……仕方ないんだ」

「仕方ないって何よ!? 納得できる理由があるなら言いなさいよ!」

「言えないよ」


「はあ!? ふざけないで!」


明らかに怒りを露わにする麻奈美に対し、健太は目を伏せる。

陽菜の視線が不安げに揺れているのが分かった。


それでも、健太は頑なに拒んだ。


ループを抜けるために。


「……俺は、陽菜とは関わらない方がいいんだ」

「なんでよ!?」

「理由は言えない。でも、そうしなきゃいけないんだ」


陽菜が小さく息を呑む。

「そんなの……やだよ」


彼女のか細い声が、健太の胸に突き刺さる。

だが、ここで折れたらダメだ。

どれだけ苦しくても、どれだけ罪悪感に苛まれても——。


「ごめん」


そう言って、健太は二人に背を向けた。

麻奈美が何か叫んだ気がしたが、もう振り返ることはなかった。


——結果、文化祭の終わりとともにリセット。

陽菜を避けても、結局何も変わらなかった。




今度は、陽菜だけでなく、すべての人間関係を断つことにした。


クラスメイトとも、剣道部の仲間とも一切関わらない。

無口になり、誰から話しかけられても淡々と返し、孤立していく。


「お前、どうしたんだよ?」

周りの友達が、不審そうに尋ねてくる。


「いや、別に」

「“別に”じゃねえだろ。お前がそんな態度とると、逆に不気味なんだけど」


「……ほっといてくれ」

それでも健太は冷たく突き放し、学校生活を送った。


当然ながら、周囲からは“何かあったのか”と噂されるようになり、陽菜もまた何度も健太に話しかけようとする。




「健太、お前……なんかあったのか?」


兄・渉が家に帰ってきた日の夜、健太の部屋を訪ねてきた。


普段なら、久々に帰省した渉と他愛もない話をして、ふざけ合うのがいつもの流れだ。

だが、健太は布団に横になったまま、そっけなく答えた。


「別に」


「……お前が別にって言うときは、絶対なんかあるよな」


渉はため息混じりにそう言って、部屋の入り口に立ったまま健太をじっと見つめる。


「親父もお袋も心配してたぞ。学校で何かあったのか?」

「何もない」

「何もないのに、剣道部も休んで、友達とも話さなくなったのか?」


健太は布団を被り、顔を隠した。

「……ほっといてくれよ」


渉はしばらく沈黙していたが、やがて小さく息をつく。


「……まあ、お前がそう言うなら無理に聞かないけどさ」

いつものような軽い口調だった。だが、その奥にわずかな寂しさが滲んでいるのが分かった。


「でも、俺はお前の兄貴だからな。何かあったら、ちゃんと言えよ」

それだけ言い残し、渉は部屋を出て行った。


健太は、布団の中でそっと目を閉じる。


(……ごめん、兄ちゃん)


本当は、すべてを打ち明けたい。

けれど、今はそれができない。


ループを抜けるために——健太は、このループ世界ですべてを断ち切る道を選んだ。


だが、どれだけ孤立しようとも——文化祭の終わりが来れば、また元の朝に戻ってしまう。


——この方法も、ダメだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ