運命の選択編2(閉じた世界)
健太は、兄・渉にすべてを打ち明けてみることにした。
「……ループしてる?」
最初は当然冗談かと思われた。
渉は苦笑しながら腕を組む。
「お前、そういうSFみたいな話が好きだったっけ?」
「信じられないのは分かる。でも……例えば兄貴が高宮裕奈のマネージャー補佐になるのとかは、もう分かってる」
「……は?」
渉の表情が強張った。
「それ、どこで聞いた?」
「どこでもない。俺が知ってるんだよ。ループするたびに同じことが起きるから」
「それだけじゃないんだ、兄貴」
健太は、一度深く息を吸い込み、言葉を慎重に選びながら続けた。
「俺の前には、二人の陽菜がいる。いつもそばにいる陽菜と、病院のベッドで眠り続けている陽菜……。どちらかを選ばなきゃならない。どちらも選ばないと、世界がリセットされるんだ」
渉は困惑したように目を細める。
「陽菜…さんは、お前の幼馴染だったよな?それが二人いる?……つまり、お前は同じ時間を繰り返しているだけじゃなくて、どちらかを選ぶ選択肢まで突きつけられているってことか?」
「そう。最初は偶然だと思ってた。でも、何度繰り返しても、同じように選択が出てくるんだ。俺は——俺は、どっちを選べばいいのか分からない」
渉は腕を組み、しばらく考え込むように視線を落とした。
「……お前、今まで一度も選んでないのか?」
健太はその問いに、わずかに肩をこわばらせた。
「……ああ」
渉はじっと健太の顔を見つめる。
「つまり、どっちを選んだとしても何が起きるのか、まだ確かめたことはないってことだよな?」
健太は唇を噛み、視線をそらした。
「いや……それは分かってる。死神から聞いた。選ばなかった方は消えるって」
「……消える?」
「ああ。死ぬんじゃない。最初からいなかったことになる」
渉の表情が険しくなる。
「それで、お前は選べずにいるってことか」
健太は力なく頷く。
「……どちらも本物の陽菜なんだ。どっちを選ぶとか、そんなの決められるわけがないだろ……」
渉はしばらく黙った後、小さく息を吐いた。
「……そりゃ、重いな」
そう言いながらも、彼の目は何かを考えているように揺れていた。
「お前の話が本当なら、ループの“終わり”はそこにあるんだろうな」
「……分かってる。でも、選べないんだよ」
「じゃあ、選ばないままだと、ずっとそのループは続くってことか?」
健太は答えられなかった。
答えたくなかった。
渉はしばらく無言で考え込んでいた。
「……なるほどな」
「信じてくれるのか?」
「いや、さすがに荒唐無稽すぎてすぐには信じられないけどな」
渉は苦笑しつつも、真剣な表情を崩さなかった。
「けど、お前がここまで真剣に言うなら、何かしらの“現象”が起きてるのは間違いないだろう。俺に嘘をついてもしょうがないしな」
健太は、兄が完全に否定しないことに少し驚いた。
しばらく考えた後、渉はこう言った。
「お前は昔から“考えるより先に動く”タイプだったからな。だからこそ、そういう状況は苦しいだろうな」
「……正直、頭おかしくなりそうだよ」
「でも、どれだけ逃げてもダメだったんだろ? なら、結局は答えを出すしかないんじゃないか?」
「……それができれば苦労しないよ」
渉の言葉は正論だ。
だが、どうしても選択肢を選ぶことに躊躇いがある。
何かが引っかかる。
どちらかを選んだ瞬間、取り返しのつかないことになる——そんな予感が、胸に根を張っていた。
渉は少し考え込んだ後、言った。
「なあ、お前がループする世界って、本当に毎回まったく同じなのか?」
「……どういうこと?」
「いや、要は毎回起こる出来事は完全に一致してるのか?たとえば、前回とちょっとでも違うことが起こることはないのか?」
「……あるよ。完全に同じってわけじゃない。毎回ちょっとずつ変わる。たとえば、最初は知らなかったことを次のループで活かせたりもするし……」
「それならさ——」
渉は真剣な表情で健太を見据えた。
「お前がいる世界は、完全に”閉じた”世界じゃないのかもしれないな」
「……え?」
「たぶん、お前が繰り返してるのは、ただの同じ世界の再生じゃない。ほんの少しずつでも変化があるなら、それは完全に“固定している閉じた世界”じゃないってことだ」
渉は言葉を続ける。
「バタフライ効果って知ってるか? ほんの小さな違いが、やがて大きな変化を生む。——そういう理論だ」
「それって……」
「簡単に言えば、お前の行動が少し変わるだけで、ループ世界の流れも少しずつ変わるのかもしれないってことだよ」
「俺の……行動で?」
「そうだ。もちろん確証はないけどな。でも、少しでも違うなら、世界が完全に決まってるわけじゃない。お前がこれまでと行動を変えたら、何かが変わるかもしれない」
健太は渉の言葉を噛みしめるように、黙り込んだ。
「ただ——」
渉はそこで一度言葉を切り、真剣な表情で続けた。
「それでも変わらなければ……お前は決断するしかない」
「……」
「どれだけ足掻いてもダメなら、答えを出すしかないんだ」
健太は、決断の時が迫っていることを悟りつつあった。




