ループ編2(陽菜ルート)
ループの中での陽菜との交流は進んでいた。
放課後の教室。
「健太くん、数学教えて!」
陽菜がノートを片手に駆け寄ってきた。
「……お前、成績悪くなかっただろ?」
「前はね。でも、長く休んでたから結構忘れちゃってて……」
少し申し訳なさそうに笑う陽菜。
それを見て、健太はため息をついた。
「……ったく、しょうがねえな。どこが分かんないんだ?」
「ここ!」
陽菜が指さしたのは、二次関数の問題だった。
「えーっと、これはこうやって因数分解して……」
「んん〜……なんとなく分かるような分かんないような……」
「お前な……。ほら、もう一回このパターンの問題やってみろ」
「うぅ……健太くんって、意外とスパルタ?」
「普通だろ。ほら、やるぞ」
——そんな日常のひとコマ。
陽菜は拗ねたように唇を尖らせながら、それでも真剣に問題に向かっていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
休日のショッピングモール。
「健太くん、この服どうかな?」
陽菜がハンガーにかけたワンピースを持ち上げ、くるりと回ってみせる。淡い水色のワンピースで、爽やかなデザインだった。
「……いいんじゃねえの?」
「もう、適当すぎ!」
陽菜が頬を膨らませる。
「じゃあ、こっちは? こっちのスカートのほうが似合うかな?」
次々に服を持ってきては健太に尋ねる陽菜。
(……なんかほんと付き合ってるみたいだな。まだ付き合ってるわけでもないのに……)
そう思いつつも、陽菜の楽しそうな表情を見てしまうと、邪険にはできない。
「うーん……そっちのワンピースの方がいいんじゃないか?」
「えっ、ほんと? じゃあ、それにしようかな♪」
無邪気に笑いながら、陽菜はワンピースを抱きしめた。
(……まあ、これはこれで悪くないか)
結局、陽菜の買い物に付き合わされ、あちこちの店を巡ることになったが、不思議と苦ではなかった。
——そんなループの中の、穏やかな日常のひとコマ。
⭐︎⭐︎⭐︎
放課後の図書室。
「健太くん、今日も一緒に帰ろ?」
「お前、最近毎日言ってないか?」
「だって、一緒に帰るの楽しいんだもん♪」
陽菜がにこりと微笑む。
「ちょっと寄り道して、カフェとか行かない?」
「……ま、別にいいけど」
「やった!」
嬉しそうに腕を組んできそうになる陽菜を、慌ててかわす健太。
「おい、そういうのはやめろって」
「え〜、減るもんじゃないし、いいじゃん」
「いや、減るとか減らないとかの問題じゃねえだろ……」
ふわりと香るシャンプーの匂いに、健太は思わず顔をそらした。
(……やべえ、なんか意識しちまう)
⭐︎⭐︎⭐︎
ある日の放課後。
空はどんよりと曇り、突然の雨が降り出した。
「うわ、傘持ってきてない……!」
そんな健太に、陽菜がすっと自分の傘を差し出す。
「入れてあげるよ。……ほら、早く」
「お前、そっち濡れるだろ」
「いいの。健太くんが風邪ひいたら、私が看病しなきゃいけないじゃん」
「いや、それお前が濡れたら看病するのは俺……」
「えへへ、じゃあおあいこだね」
狭いビニール傘の下で、肩が触れそうになる距離。
顔を赤くして黙り込む健太に、陽菜はいたずらっぽく笑う。
⭐︎⭐︎⭐︎
昼休み。
購買で一緒にパンを買いに行ったら、陽菜の好きなチョコクリームパンが売り切れていた。
「うぅ、今日の分もう終わっちゃったか……」
「……ほら、俺のやるよ」
「えっ、いいの!?」
「別に、俺はあんまこだわりないし」
「ありがと健太くん!……あーんってしてくれたら、もっと嬉しいな〜?」
「するかっ!」
「冗談冗談♪」
でも、ほんのちょっとだけ期待してたような陽菜の表情に、健太はまた顔を背けるしかなかった。
陽菜のアプローチは、ループのたびに確実に強くなっていった。
まるでギャルゲー「カオス♾️ラブ」に出てくるイベントのように、陽菜との日々は甘く、楽しく、どこか現実離れしていた。
まるで彼女がゲームのヒロインで、自分が陽菜ルートを進んでいるかのようにーーー
⭐︎⭐︎⭐︎
「健太くん、夏休みの予定は?」
終業式の帰り道、陽菜が唐突に聞いてきた。
「ん? まぁ、剣道の合宿とか色々あるけど……」
「そっか……でも、合宿の後って暇?」
「まぁ、特に決めてないけど……なんで?」
陽菜はニコッと笑って、言った。
「プール、一緒に行かない?」
「……は?」
「夏っぽいことしたいじゃん! それに、私、水着買っちゃったんだよね〜」
「だからって、なんで俺なんだよ……」
「だって健太くん、私の幼馴染でしょ?」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
「決まりっ!」
——そして、夏休み。
健太は結局、陽菜に引っ張られるようにしてプールへ行くことになった。
「おまたせ!」
更衣室から出てきた陽菜は、白と水色のストライプのビキニを着ていた。
「ど、どうかな……?」
珍しく、恥ずかしそうに腕を後ろに回す陽菜。
「ま……まぁ、似合ってるんじゃないか?」
健太は頬を掻きながら照れ臭そうに言う。
「そ、そう? えへへ……」
陽菜は少し頬を染めながら微笑んだ。
——こうして、何度も繰り返すループの中で、健太は“今の陽菜”と確かに時間を積み重ねていた。
以前の陽菜とは違う、明るく自信に満ちた彼女。
一緒にいると、どこか眩しく感じるほどだった。
ーーしかし、それでもループからは抜けられなかった。




