日常編1(トラブル製造機・久住健太)
今までと少し毛色が違う作品ですが、良かったら読んでください。
尚、作者はギャルゲー、エ◯ゲー好きです。
久住健太は、飽きていた。
剣道は好きだった。小学生の頃に始め、中学では全国大会にも出場した。高校に入っても剣道部で稽古を続け、自然と結果を出してきた。
ただーー気づけば、今や高3やOBすら圧倒するほどの実力が身についている。
それだけじゃない。
勉強もすらすらできるし、スポーツも得意。なぜか人の行動が読めることも多い。
テストの問題が直感的に分かることもあれば、剣道の試合で相手の動きが見えるように感じることもある。
最初は気持ちよかった。
何をやっても思い通りになるのは、悪い気分ではない。
だが、ある時ふと気づいた。
「これ、前にもなかったか?」
そう思う瞬間が増えた。
誰かの言葉、廊下での出来事、次に起こる展開が分かる。
まるで決められた脚本をなぞっているような感覚。
思い通りになることが、次第に不気味になってきた。
そして気づけば、全てがただの繰り返しに思えてきた。
日々は流れるが、新しいことなど何もない。
ただ、決められた出来事をなぞるだけの毎日。
飽きた。
もう何もかも、うんざりだった。
そんな健太の前に、突然現れた人物がいた。
「おはよう、健太くん!」
桜舞う春の日、高校2年の始業式。
教室の入り口に立っていたのは、長い黒髪をなびかせた、一人の美少女だった。
大川陽菜。
幼い頃からの幼馴染で、中学までは病弱で学校を休みがちだった女の子。
だが、目の前の彼女は――昔の印象とはまるで違っていた。
堂々とした態度、自信に満ちた笑顔。
そして、その場の誰もが見惚れるほどの美貌。
そして彼女は、健太を真っ直ぐに見つめ、こう言った。
「健太くん、好きです! 付き合ってください!」
その瞬間、健太の中で何かが軋む音がした。
デジャヴのような違和感。
何かがおかしい。
けれど、この時の健太はまだ知らなかった。
まだこの時、彼にとって”同じ日常”のほんの始まりであることを――。
☆
久住健太、高校2年生。
両親と、大学3年生の兄・渉の四人家族。
特に変わった家庭環境ではない。
剣道は子供の頃に何となく始めたが、才能があったようで、気づけば全国レベルの実力になっていた。
頭は普通。
勉強はできなくはないが、特別優秀というわけでもない。
友達からは「単純」「楽天家」と言われることが多いが、本人は特に気にしていない。
困っている人を見かけたら率先して助ける、まあまあいいやつ。
彼女は――万年募集中。
モテないわけではない。
剣道をやっているおかげで体は鍛えられているし、顔立ちもそこまで悪くない……はずだ。
告白されることもそれなりにある。
しかし、何故か告白されるのはちょっと変わった女の子ばかりだった。
例えば——
「私、前世であなたと結ばれる運命だったの!」と突然運命を語り出すスピリチュアル系女子。
「君の生活を観察して、完璧な彼女になれるよう努力してきました!」とストーカーじみた努力家女子。
「えっ、付き合う? いやいや、私が告白したのは冗談だから!」となぜか全力で撤回してくる謎の小悪魔系女子。
「……健太くんを好きな子、全部消せば、私だけ見てくれるよね?」と物騒なことを囁くヤンデレ系女子。
……などなど、どこかズレている子ばかり。
そして健太が好きになる女の子は、なぜか常に彼氏持ちという謎の法則がある。
そんな健太の夢は、『好きになった子と付き合ってエッチしたい』だった。
ーー健太の高校生活は、日々事件の連続だった。
道を歩けば困っている人に遭遇し、
電車に乗れば痴漢を見つけ、
助けた女の子にはストーカーされる。
しかも、それらのトラブルは些細なものばかりではない。
暴走する車が突っ込んできたり、ひったくり犯がナイフを手にしていたり、危うく巻き込まれそうになった喧嘩が、実は裏社会の抗争だったり——
命の危険を感じる場面も、一度や二度ではなかった。
だが、不思議なことに、どれだけ危険な状況に陥っても、健太は致命的な怪我を負うことがほとんどなかった。
確かに剣道の経験が生きていた部分はある。
無意識のうちに身についていた動きが、危機を回避する助けとなった。
反射的に身をかわし、適切な間合いをとったり、時には竹刀の代わりに傘や木の枝を使い、攻撃を受け流すこともあった。
しかし、それだけでは説明がつかないことも多かった。
明らかに間に合わないはずのタイミングで誰かが助けてくれたり、すんでのところで車が方向を変えたり、襲いかかってきたナイフが、なぜか衣服だけを裂いて肌には届かなかったり。
ーーまるで、何かに試されているかのように。そして同時に、何かに守られているかのように。
とはいえ、本人の意思とは無関係に、日常の至るところで事件が起こる。
気がつけば、どこかのトラブルの中心に自分がいる。
だから、健太の周囲の人間はまず「トラブルが起きたら久住を疑え」と言っている。
人は彼をこう呼ぶ。
「生粋のトラブル製造機」と。