2:革靴の出会い①
今回も分割しての投稿になります。ごめんなさい。
ご意見ご感想、遠慮なくいただければと思います。
「君はもっとしっかりと物事に取り組まないと!まったく、授業に対する真剣さが足りない!そうですよね、広田先生?」
「はい、山村先生。ちゃんと聞いているか?辻本?このまま3年生になって、困るのはお前なんだぞ!こんな状態じゃ内申点はだな・・・」
背中で汗がつたった。
相変わらず日差しは強い。扇風機が生ぬるい風を送っている。
ステレオでお説教されて、もう1時間経過した。
放課後になり、案の定、呼び出しをうけた大樹は、すごすごと職員室に向かった。
そこに待っていたのは、広田に加えて、大樹のクラスの担任である山村であった。小太りの山村はうちわを片手に、とめどなく流れる汗を拭きながら怒鳴っている。
初めは、早弁についての単純な叱責だったはずが、時間と共に、説教の論点は様々な所に飛び火していった。
勉強のこと、受験のこと、将来のこと・・・。
最初のうちは、おとなしく聞いていたが、あまりにも長くなったので飽きてきた。
ふと、窓から校庭を眺めると、多くの生徒達がそれぞれの部活に打ち込んでいた。みんな夏空の下で、暑さに負けずに動き回っていた。
(これじゃ、部活出られないな。まぁ出たって、どうせまともに練習させてもらえないけどな。)
大樹の所属しているサッカー部は、日野2中でもっとも人数の多く、そして伝統のある部だ。
社会人チームで元レギュラーをしていた顧問と、選りすぐられたメンバーによって、毎年大きな大会に参加しては良い成績を修めている。
そのため学校内でも人気があり、多くの新入生がこぞってサッカー部に入部するのだった。
人数の多い部活に当然のことだが、部内の競争は激しい。
小学生の頃は、体育の時間や遊びでサッカーをやったぐらいの大樹にレギュラーをとれるはずもなかった。
(部活もつまんないし、辞めようかな・・・)
ぼんやりと、そう思った。
日野2中は、全員が部活動をしなくてはいけないと決めている。
「勉強だけでなく、部活動にも積極的に参加することで、健全な精神を育成できる」という校長の方針だった。
入りたい部活が特に見つからなかった大樹は、友達に誘われるまま、なんとなくサッカー部に入ったのだった。
サッカー自体には特に未練も何もなかった。
だが、辞めるとなると、また違う部に入らなくてはいけない。
他に入りたいと思えるような部は、なかった。
(中学って、思ったより面白くないな・・・。)
「・・・本!おい、辻本!聞いているのか!」
広田の怒声で、物思いから引き戻された。
「あ・・・はい。聞いています。」
外に向いていた視線を、教師に移した。
「注意力散漫なんだお前は!こんなことではな・・・」
「そうだよ、辻本君。君はもうね・・・」
また、説教が続いた。
窓の外では、だんだんと日が落ち始めていく。
校庭にところ狭しと動き回っていた生徒達の数が減っていく。
学校全体が、活動をやめていくようだった。
騒がしい生徒達の声は、もう聞こえなくなった。
こってりしぼられた大樹が解放された時、もう既に6時を過ぎていた。