1:ついてない夏空③
1章終わりです。
移動教室なのだろう、廊下に立っている大樹の目の前を、他のクラスの生徒がニヤニヤと好奇の目を向けながら、何人か通りすぎていった。
恥ずかしくて、出来るだけ目を合わさないようにした。
しばらくすると、壁越しにぼんやりと聞こえる、くぐもった授業の声以外は、廊下で音を発するものがいなくなった。
耳を澄ますと、近くの雑木林からか、うっすらとセミの声が聞こえてきた。
廊下にポツンと、1人、壁に寄りかかりながら、大樹は思った。
(一時間目が数学ってことを、すっかり忘れていた。広田は生活指導でもあるから、この後担任に報告されるなぁ。今日は遅刻しなかったけど、あの様子じゃ反省文かな・・・。)
静かだった。
しばらく、ぼーっとしていた。
目の前にある、大きな窓から、青い空が見えた。
ぬけるような青さだ。
夏の匂いがする。
「あーあ、最近ツイてないなぁ・・・」
思わずひとり言がでた。
「何がついてないって?」
いきなり、声がした。
「い、いえ、な、なんでもない・・・」
また広田に注意されたと思い、思わずビシッと、気をつけの姿勢になった。
「あははは、僕だよ。大ちゃん。」
笑い声のするほうを、見ると、
「優也!!!」
やわらかい笑みを浮かべた、幼馴染がいた。
優也は、昔と何一つ変わらない、温かさをもっている。
「なんだよ~、てっきり広田に怒られたかとおもったぜ。」
「まーた、なんかやったんでしょ?朝から廊下に出されて。」
「そういう優也だって、今頃何してるんだよ。とっくに授業始まってるだろ?」
「僕は、今、学校来たトコ。」
「今って・・・あ、そっか・・・今日は・・・火曜日か。」
納得した。
「うん。そういうこと。じゃ、僕、教室行くね。」
と、言いながら優也は隣のクラスに入っていった。
「おう!また後でな!」
優也に手を振りながら、大樹がそう言うと、
ガラッ。
優也が自分の教室に消えると同時に、大樹のクラスのドアが開いた。
「誰と、おしゃべりしているのかな?辻本?」
恐る恐る、後ろを振り返ると、広田が腕を組みながら仁王立ちになっていた。怒りから、声が小刻みに震えている。
「え・・・っと・・・」
「反省するために廊下に出たのに、大声で、おしゃべりしていいのかな?」
「そんな大声は・・・出して・・」
「教室の中まで筒抜けだ!ばか者!お前は今日、居残り決定だ!」
ピシャ!
広田はそれだけ言うと、ドアを思い切り閉めて、中に入っていってしまった。
大樹はまた、1人、廊下に取り残された。
(あーあ。ツイてないなぁ・・・)
空は、大樹の気持ちなどお構いなしに、相変わらず、青く澄んでいた。