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1:ついてない夏空②

予想より、長くなってしまいました。

午前8時18分。


危ないところだったが、予鈴ギリギリで校門へたどり着いた。


「はぁ、はぁ。」


全力疾走したため、息は上がっていた。それに、汗がとめどなく流れてくる。容赦なく

照りつけてくる太陽を呪った。


校庭を横切り、大樹たち2年生の教室がある校舎、東校舎へと歩いていった。


大樹の通う日野市第二中学校、通称日野二中は、学年ごとに教室がある校舎が別れてい

る。

1年生は体育館と合体している西校舎、2年生は理科実験室や美術室などの特別教室のある東校舎、そして3年生は教員室や事務室がある中央校舎にそれぞれ教室があるのだ。



校舎へ入り、下駄箱に着く頃には、少し息が整っていた。


スニーカーから、校内履きに履き替え、2階の一番奥にある2年4組の教室へと向かっ

た。

階段を登り、廊下を歩いていると、予鈴がうるさく鳴り出した。それとともに廊下にまで溢れて、騒がしくしていた生徒達は慌しく、教室へと吸い込まれていく。幾人かの生徒がまだ教室の外をうろうろしてはいたが、急激に静かになった。


その静かさが妙に、気持ち悪くなり、大樹は自分の教室へと足を速めた。



ガラッ。


教室の扉を開けると、中ではまだあちこちでおしゃべりが続いており、適度に心地よい

雑音だった。


「おっはっよー!大樹クン!遅刻ぎりぎりだよー!」


ざわざわとしている教室の中で、一際元気の良い、そして幼い声が響いた。


声のする窓際の列の後方を見ると、3人の男子生徒が集っていた。その中でも、一番背の高いのが1人、長い手を器用に振りながら飛び跳ねていた。


2年生になり、急激に身長が伸びた雄大だ。

河野雄大、未熟児だった雄大は「たとえ体は小さくとも、心は広く大きくあれ」という願いをこめて、雄大と名づけられたそうだ。だが両親の思いに反し、1年生の頃は140センチしかなかった身長も、わずか半年足らずで40センチ伸び、今では180センチ以上ある長身になった。


ただ、自分の体の成長に心が追いついておらず、でかい図体の割りに子供っぽい。身長だけ伸びて、声は幼いままであるし筋肉も発達していないので、ただ単に縦に引き伸ばされただけのような感じで、アンバランスである。

まるで、枯れ木のようだ。

これで中身も大人になればもう言うことないのだけどねぇ、と雄大の両親がこぼしていたのを、大樹は思い出した。


「うるせぇ、雄大。これでも必死で走ったんだぞ。」


そう憎まれ口を叩きながら、友人達が集っている、窓際の列の一番後ろの自分の席へと向かった。


「走らないでいいよーに、もっと早く起きなきゃー。」


雄大が口を尖らした。


「すいませんね、早く起きたけど思わぬハプニングがあったんだよ。」


自分の席に着き、背負っていたリュックを下ろしながら、大樹が言うと、


「お~、辻本~。汗だくじゃん。」


落ち着きなくふらふらしている雄大と対照的に、まるで疲れたオヤジのようにだらしなく窓に寄りかかっているリュウジが言った。


森川リュウジ、態度だけでなく制服まで常にだらしなく着ている男だ。


「この暑い中ダッシュしたんだぜ?汗かくのが普通だろ。」


大樹は、リュックを自分の机に置き、中の物を出しながら言った。その中には、リュウジに借りた漫画もあった。


「あ、これ借りたやつ。ありがとな。」


リュウジに借りた漫画を返しながら言った。


「お~、どういたまして。俺は、汗かくのごめんだね~。そんなになるなら、遅刻のほうがましだ。」


常にダルそうなリュウジらしい言葉だ。


「俺は、おまえと違って、これ以上遅刻するとヤバイんだよ。」


と、大樹が言うと、


「そうだよ。辻本君はただでさえ残念なくらい頭悪いのに、これ以上生活態度で注意されると内申が酷いことになるんだよ?頭の良い森川君とは崖っぷち度が違うんだよ。ね?辻本君?」



と、大樹の席のイスにちゃっかりと座り、明るくニコニコしているコーキが言った。


「お、おう・・・そう・・・だけど。」


同意を求められ、苦笑した。確かに、リュウジはクラスでも一番頭がいい。

いや、学校でも一番かもしれない。

生活態度さえ改めれば、模範的な生徒となるだろう。

だが、こうはっきりと、そして、にこやかに言われるとは。



鳥丸光輝、通称コーキはズバズバ物を言う。

よく女の子に間違われ、男の大樹でさえも可愛いと思ってしまう、かわいらしい顔をしているし、屈託なく笑うので男女問わず人気がある。


だが、口は非常に悪く、思ったこと感じたことを遠慮なく言うタイプである。それに、言うことは全て的を得ているので、誰も反論できないから、たちが悪い。

本人に悪気がないというのも、それに拍車をかけている。



「辻本君は勉強できないんだから、他でなんとかしなくちゃ!せめて部活でレギュラー取れればいいのにね!まぁ、人数多いサッカー部じゃ無理だけどね。だから生活態度ぐらいしか評価できないんだから気をつけよーね。」


と、ニコニコしながら言い放つ。


「わかった、わかった。わかったから、コーキそこどいて。」


言い返せない大樹は、軽く流した。


(まぁ、サッカー部でレギュラー取れないっていうのは、ちょっとグサッときたけど。)


「あ、ごめんね!今どくよ。」


「走ったから、腹減ったんだ。授業始まる前にちょっと燃料補給。」


(朝食べたトーストはもう走るのに使っちゃったからな。)


コーキが立ち上がり、空いた自分の席に座り、リュックから弁当を取り出した。


「大樹クンまた、早弁だ!もう本鈴なっちゃうよ?」


「河野~もうちょっと、小さな声でしゃべろよ~。お前の声キンキンしてうるさい。」


リュウジはうるさそうに手で追い払う仕草をした。


「だって、これ地声だもん!どうしよーもないよ!」


「だから、もうちっとボリューム下げろって・・・」


雄大とリュウジが言い合いを始めたが、大樹は気にせず弁当に手をかけた。



(今日のオカズは何かな~!)

大樹はワクワクしていた。

弁当を食べるときが、一番幸せな時間だ。


フタを開けるとそこには、

「え?ひ・・・日の丸・・・弁当・・・?」


長方形の弁当箱には、真っ白な白米がびっしりと詰め込まれており、その真ん中に梅干が1個添えられているだけだった。


(何だよ・・・これ。)


「あ、辻本君、今日は日の丸弁当だね。」


弁当を覗き込んだコーキが、明るく言った。


その言葉に、言い争っていた他の2人も、大樹のほうを見た。


「真っ白ごはんだ!ボク、ふりかけもっているよ、あげようか大樹クン?」


「オカズなしかよ~。さびしい~。」


「バランスよく食べないと、身長伸びないよ辻本君。ちゃんと、五大栄養素をしっかりとらないから、いつまでたってもちびっ子のままなんだよ。」



好き勝手言っている。



「うるせぇ。肉ばっかりで、茶色づくしの弁当よりは、マシですよーだ。」


舌を出しながら皮肉った。



(母さん今日手抜きしたな。どーせ、近所の小母さんと旅行行くとかで昨日夜遅くまで電話していたから、今日寝坊したんだろうけど。母さんも俺と同じようなものじゃん。)




キーンコーン、カーンコーン。


本鈴がなった。授業開始の合図だ。


「くそ。お前らがギャアギャア言ったから、食べられなかったじゃん!」


と、3人に食って掛かろうとした時・・・


「誰のせいで食べられないって?」


教室の入り口には、数学の広田がいた。こっちを冷たい視線で見ながら佇んでいる。


「辻本。お前、また早弁か?」


「いえ、あの、これは・・・その・・・」


さっきまでざわざわしていた教室が、静かになった。


さっきまで大樹の周りに居た3人もいつのまにか各々の席に戻っていた。


(あいつら、逃げ足は速いんだから・・・)


「授業が始まる前は、何をする時間だったかな?言ってみろ。」


「えっと・・・その・・・ちょっと休んだりする・・・時間?」


「バカたれ!授業の準備をするための時間だ!なのに、お前は教科書も開かずに弁当出して、それで授業受けるのか?」


「あ・・・今、片付けま・・・」


「もういい!そのまま外に出ていろ!」


一喝され、教室から追い出された。


教室から出る瞬間、扉近くに座っているコーキが、やれやれという表情をしていたのが見えた。





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