1:ついてない夏空①
長くなるため、分割して、①としました。
「もう5年経つのか・・・」
朝だというのに、もう既に蒸し暑い。
それもそのはず、今は7月。ジメジメとした梅雨があけ、季節は夏へと移ろっていく。
大樹は、まだ寝ぼけた頭のままトーストをかじっていた。
夏が始まる時の独特の雰囲気、暑さと、そして窓から差し込むジリジリとした日差しを浴びて、幼い日の夏休みがふと脳裏に浮かんだ。
昔は毎日楽しかったなぁ。
「何、ボーっとしてんの!早くしないと遅刻するわよ!」
台所から、母親の怒鳴り声が飛んできた。
その声で、大樹は物思いから引き戻された。
「わかってるよ!」
まずいまずい、昔のこと思い出している場合じゃなかった。
慌てて、朝食に注意を戻した。
今日遅刻したら、反省文だって担任から言われているのを忘れていた。
反省文には、保護者のサインが必要、つまり母さんにも怒られるということだ。
今年だけで、もう5回も書いている。
これ以上書くと、家の財布を握っている母さんのことだ、「しばらく小遣い無し!」と言ってくるだろう。
それは、困る。とても困る。
なんてたって、今月は地元のサッカーチームの試合がある。
それに、新しいスパイクも買いたい。もう今のスパイクは、ボロボロ過ぎて試合には使い物にならない。まぁ、補欠にすらなってない、おれに必要なのかって疑問はあるけど・・・
いやいや、どちらにしても小遣い無しだけは、絶対に阻止しないと。
大樹は、食べかけのトーストを口の中に放り込んだ。
イスの背に掛けてある制服の上着を掴み、玄関へと向かった。弁当と借りた漫画しか入ってないリュックを背負いながら、スニーカーをさっさと履いた。
「じゃ、うぃっふぇふぃふぁふー」
「全部、飲み込んでからしゃべりなさい!」
怒鳴り声が飛んできた。
「ふぉーい・・・」
また、怒られた。急いで口の中のものを飲み込んだ。
「いってきますー。」
「はい、いってらっしゃい!全く、毎朝毎朝、これの繰り返し!少しは・・・」
これ以上いると、更に小言が飛んできそうだ。さっさと学校行こう。
母親の小言が聞こえないふりをして、大樹は家を飛び出した。
今は、7時50分。
大樹の通っている日野市第二中学校までは、自転車で15分かかる。そして始業のベルが鳴るのは8時20分。
余裕で間に合う!
玄関横に併設されている車庫で、自転車を押し出しながら大樹は思った。
道路に自転車を出し、勢いよく乗り、ペダルをこぎだした。だがその瞬間・・・
ガガガガガ!!!!
「え!?」
嫌な音がした。
自転車を見てみると、前輪がパンクしている。
「はぁ!?なんでパンクしてるんだよ!」
完全に空気が抜け、車輪が地面に直接当たっている。
「そういえば・・・太一のやつ昨日おれのチャリ借りるとか言って・・・あいつか!!!」
太一は小学2年の大樹の弟である。好奇心旺盛で、イタズラ盛りの年頃だ。
大方、安全ピンか何かで穴を空けたんだろう。
あいつ、帰ったら・・・・覚えとけよ!
自転車が使えないとすると、走るしかない。
走るとなると話は別だ。
時刻は既に、7時55分を過ぎた。
ギリギリで間に合うかどうかというところだ。
弟への怒りは後にして、大樹は走り出した。
今日は特にいい天気で、雲ひとつ無い青空だ。
夏の日差しは容赦なく照りつけてくる。
走り出して、まだほんの数分なのに、もうじっとりと汗が染み出してきた。
朝からこれかよ・・・ツイてないや・・・。