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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編(過去作)

自殺自聞

作者: あさろ

中校生時代に書いたものを、一部修正したものです。

 幾度に渡って、人を殺してきました。

 殺したい訳ではないのです。

 殺さなければ生きていけないのです。

 私はそうして、毎日殺し続けています。

 時には通り魔のようにさりげなく、時には常習犯のように当たり前に。

 私はそれを殺します。


 * * *


 それは夢で私に語りかけてきました。毎日毎日、夢枕に立つように執拗に。自分達の意思を伝えたいとでも言うのでしょうか。

 私にはそれが分からないのです。

 今日もまた彼女達は夢に出てきて、私に怨み言の一つでも言うのでしょう。かれこれ一週間、私は毎晩同じ夢をみます。

 ーーー夢をみます。

 彼女は夢に出てくると早々に言うのです、「こんばんわ、今日も私を殺したね」。そして、彼女の話は一晩中続きます。


「本当は学級委員長になんかなりたくなかった」


 彼女は1限目のホームルームの時に殺した私でした。

 自分の顔であるにも関わらず、自分はこんな顔も出来るのかと思わず感心してしまいます。それは酷く嫌そうな顔でした。


「学級委員長なんて面倒なだけで、私にはなんの利点もないじゃあない。分かってるでしょう?貴方は面倒事を押し付けられたのよ」


 彼女が言いました。

 知っています。そんなことは言われなくても分かっていることなのです。しかし、あそこで断ってしまえば、私の一年は酷く寂しいものになるという事も分かっていました。仕方のないことだったのです。

 そう、貴方には分からないでしょうね。

 彼女はひどく不服そうな表情を浮かべて、私を再度見てきます。


「でも本当に、甘いものは好きじゃないの」


 それはいつ殺した私なのでしょうか。甘いものは、確かにあまり得意ではありません。


「お昼休み、『お友達』からお菓子を貰った時に殺された私よ。結局、お菓子食べちゃったのね」


 彼女の言っていることは事実でした。甘いものは得意でなくても、『お友達』の好意を無下にするという行為は良くないからです。『お友達』は、クラスという集団生活において必要不可欠な存在だから。どんなに嫌でも、一度の我慢で今後の日常が守られるのです。

 それでもやはり、砂糖に覆われた甘ったる匂いが、私には到底好きになれそうにありません。胸が詰まるような苦しさと、こみ上げる吐き気。

 殺さずにはいられなかった。

 当然のことでした。


「自分を偽って生きることは、楽しい?」


 楽しい訳がありません。貴方にもそのくらい分かるでしょうに、あえて聞くなんて意地悪なものです。そうしないと生きていけないのだから、仕方ないのです。


「そうやっているといつか後悔しない?」


 こうしなかった方が後悔することばかりになってしまうでしょう。今までがそうだったのですから。

 そんな当たり前なことを聞かないでください。

 私は、周りの人がやっていることと同じことをしただけなのです。罪悪感などありません。当然のことなのですから。みんな、そうやって生きている。私もその一人に過ぎないのだから。

 「じゃあ、最後に」、彼女は少し憐れむような、それでいて慈しみの持った目で私を見ました。

 どうして、貴方がそんな顔をするの。私はでなく。


「本当は泣きたい癖に」


 私が殺した貴方は、本当は辛くて、苦しくて、生きるのが嫌になって、声を出して泣き叫びたかった私。死にたい訳ではありません。ただ、偽ることなく、自分のあるがまま生きたい。でも、それができないことも、私が一番よく分かっています。

 握りしめた拳に力が入りました。悔しいのか、悲しいのか、自分でもよく分かりません。ただただ虚しさだけが胸の内に飛来しました。しかし、目の前の私は、私以上に苦しそうな表情を浮かべています。

 今にも泣きそうな顔をして、よく言えたものだわ。本当に泣きたいのは貴方じゃない。

 いいえ、貴方は私だもの。本当に泣きたいのは私なのね。

 生きることは難しくて、たまに息ができなくなる。平気な顔して、馬鹿みたいにヘラヘラ笑って、みんなに嫌われないように道化を演じています。そんなことは、酷く馬鹿げていました。


「ごめんね、苦しいよね、辛いよね。本当は分かっていたのに。貴方が一番辛いのは、自分を殺すこと。何人もの私を、貴方は殺した。でも、貴方は悪くない、私は悪くないよ。殺してもいいよ。それで貴方が生きていけるのなら」


 ごめん。ごめんなさい、私。貴方も、結局は私。

 殺してきた私はみんな、今の私と生きています。一緒に生きていきましょう。

 ーーー夢から覚めると、私を襲ってくるのは必ず悲しみでした。

 これが本当に悲しみなのかは分かりません。ただただ満たされない私の小さな胸が、ずきんずきんと音を立てて傷むのを堪えるだけでした。

 私の心は毎日少しずつ壊れていきます。それが私には分かるのです。

 自分を殺すことで得た生は、私の小さな胸を傷つけ、私の脆い心を壊すのです。

 それでも私は、私を殺します。

 それだけが生きる方法なのです。

 こうすることでしか生きられない私を、責めて、咎めて、叱ってください。弱いことを、情けないと嘲笑ってください。それだけが唯一の救い。

 そして、今日も私は殺すでしょう。今日死んでいく私は、きっと今の私ですから。


「さようなら、私」


【言い訳 (あとがき)】


私はたぶん、今日だけで10回は殺していると思います。

なんて戯言ですかね。


殺さずに生きていける人間なんていませんし、それが出来たら、人間じゃあない。

人は多かれ少なかれ、必ず、苦しさや辛さから自分を殺して生きていくんです。


殺していいんですよ。

自分なんですから。

他人じゃあ、ないんですから。


ただし、殺して“生きていく”んです。

本当に死んではいけない。


今まで殺してきた自分に手向けを。

私達は生きていかなくてはならない。

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