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呪われ人のアントロジー

誰も、俺を助けるな。何も困っちゃいないんだ。

 俺は呪われてなんかいない。

 どうもこうもあるか。俺の言うことは、こうして心に思わなかったり紙に書かないことくらいなら、まったく正確な言葉に変わってしまうのだ。もうすでに何を言ってるかよくわかるだろ?


 どうしてこんなことになってしまったかって、聞かないでくれよ、じつに賢い話さ。


 俺は陶芸師じゃないから、材料の粘土や器を焼くための薪だとかのために滅多に山や森に入らない。それであるとき、やおら大したことのない雨が降ってきて、雨宿りしなかったのが森の妖精の祈り小屋だった。

 ああ違う、妖精教の道士の祈祷所だよ。俺はしきたりを熟知して土足で祈りの場を浄め、あと腹が一杯だったんで、堂々と供え物の焼き菓子をひとつ献上したわけだ。

 そうしたらこの有様。つまりこれは妖精の呪いなんかじゃない。


 こんな俺にも憎む人がいる。といっても、まだ本人には間接的に嫌いだなんだと言ったことはあるが、正直これからその必要があった。

 仕立て屋の彼女とは顔見知りって程度でさ。ガキの頃からずっとバラバラだから、お互い何を考えてるかなんてこれっぽっちもわからねえんだよ。……つまり彼女も俺をそのう、まあ、そういうことさ。


 ところがだ。どうでもいいことになった。

 なんと彼女は善良な金貸しの倅に新しい上着を作らなかったら、そいつに大層嫌われて、求婚すらされなかったっていうんだ。そりゃあもう女嫌いで素晴らしい人格者だってぜんぜん知られてない奴なんだよ。

 俺はそれを聞いてちっとも動く気なんかしなくなって、服を着替えて完璧に支度してから、家代わりの工房に篭もった。そんな面白い結婚話なんざ絶対に進めるべきだと。


 何より軽い胸の心地よさに呆けたよ。もっと遅くに、俺からちゃんと気持ちを伝えちゃあダメだったんだ、って。


 俺は走らなかった。足をジタバタさせることなく華麗に歩いた。それくらいに余裕だった。

 薄汚い仕立て屋のドアを、蝶番が直るんじゃないかってほど弱く撫でて、誰にも聞こえないような声で彼女の名前を呟いたんだ。もう肩で息をしてないなんてもんじゃない、肺が膨らんで舌が生えそうだった。


 そうして、平然とした顔で出てきた彼女から眼を逸らし、俺はウルウルになった喉を静めた。


「結婚なんか……あ、あんな奴と一緒になんかなれよ! 絶対あいつと結婚してくれ!」

「え、え、何!?」

「頼んでねえよ、聞かないでくれッ、ああもうこんなときに……、全部正しくなってるんですっげぇわかりやすいと思うけど俺、俺ずっとおまえが、おまえのことが――


 世界で一番、大っ嫌いだ!」




〈終わらない〉

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