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商売の心得


「イリス、それは」

「それは、何?」


後ろからクライスが硬い声で口を挟むのを、イリスは容赦なく遮って振り返った。


「確かに盗みは良くないよ。そんなこと、この子達だって痛いほどよくわかってると思う」


イリスの言葉にクライスの視線が再び少年と少女に向けられる。クライスの視線を受けた少年は居心地悪そうに身じろいだ。そんな少年に向き直り、イリスはニッと笑った。


「ちゃんとお金を稼ぐ方法、知りたい?」

「っ!うん、知りたい!!」

「ニナも!しりたい!」


よし、と大きく頷いたイリスは両手を腰に当て胸を張ると、人差し指を立て大袈裟に前に突き出した。


「じゃあ、まずは…商売の心得その一!市場調査せよ!」

「しじょーちょーさ?」

「そう、この町では何が人気で、どんなのが売れてるのか調べるの。そして…便乗する!!」

「びんじょー?」


ニナが目をキラキラと輝かせながら首を傾げた。そんなニナに笑顔を向けながら、今度は人差し指と中指の2本を立てイリスは続けた。


「商売の心得その二!売り場を確保せよ!」

「かくほ?」

「店を出す時は、人通りが多くて近くに同じようなものを売ってる店がないところに出すこと!」

「お前は一体どこでそんな知識を得るんだ…」


後ろから呆れたようにクライスが言うと、イリスはニヤリと含み笑いを浮かべて振り返った。


「キースウェッジのお祭りの時、孤児院からお店出してたの。売り上げ一位のイリスちゃんに任せなさいって!」

「……意外な才能があるようだな」


成程、と納得したクライスからまた視線を少年少女に戻したイリスは、腕を組んで首を傾げた。


「とりあえず、一番大事なのは何が売れるかってことだね。この町で今流行ってて、尚且つ需要があるもの…うーん…」


なんだろうか、と先ほどまで見て回っていた市場や商店街の様子を思い浮かべていると、少年が閃いたように声をあげた。


「ミモザ!ポートジェネロはミモザが有名なんだ!」

「そっか、たしかに!でも、それだけじゃちょっと弱いんだよなぁ。ミモザを使ったなにか…みんなが欲しくなるような……」


イリスがぶつぶつとぼやきながら考えていると、少年の斜め後ろにいた少女が勇気を出すように一歩前に出た。


「ニナ、ミモザのお花、かわいくできる!」

「可愛く?」

「うん!」


笑顔で大きく頷いたニナは、小さく咳をこぼしながらもその瞳には確かに光を宿していた。そんなニナをじっと見つめていたイリスの頭の上にピコーン!と電球が光った。


「閃いた!」

「おおっ!」


少年が期待に満ちた目でイリスを見上げた。イリスは自信に満ちた表情でクライスへ尋ねた。


「クライス、この辺りにミモザがいっぱい咲いてるところない?」

「ちょうどそこへ行こうとしていたところだったんだが」

「最高!!」


喜びの声を上げたイリスと、やれやれと首をふるクライスの対照的な姿に少年達は顔を見合わせて首を傾げたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー



小道を抜け、細い坂道を登った丘の向こう側、町から少し離れたところにそれはあった。


「わ………すごい、綺麗…!!」


数えきれないほどのミモザの木が両側に並び、綺麗に咲き誇った黄色の華やかなトンネルが続いていた。そしてそのトンネルの奥には空と海が繋がった青色が鮮やかに映えている。息を呑む美しさだった。


「ここ、有名なんだけど坂道が多くて大変だからあんまり人が来ないんだ」


少年が誇らしそうに目の前の光景を見つめながら言った。


「お姉ちゃん、ありがとう!ニナ大丈夫だよ!」

「はーい、ゆっくり降りてね!」


体力の無いニナを背負って歩いてきたイリスは、ニナをゆっくりと降ろすとぐーっと腰を伸ばした。クライスが自ら小さな女の子を背負うはずもなく、自然とイリスがニナを背負いここまでやってきたのだった。


もしこの場にカイルがいたら、きっとクライスに文句の一つでも言っていそうなところだが、生憎ここにはいない。イリスもイリスで当たり前のように自分が背負えばいいと心から思っているため、クライスと話し合うこともなく当然のようにイリスがニナを背負っていたのだ。


「お兄ちゃん、ミモザとって!」

「うん、ちょっと待ってろよ」


近くの垂れ下がっているミモザの花に手を伸ばし、そっといくつかの房を手に取った少年は妹にそれを手渡した。ニナはミモザの花を手に取ると、その房を小さな手で器用に編んでゆく。そしてみるみるうちに小さな輪っかが出来上がり、ニナは自分の手首に通した。


「できた!」

「わ、可愛い!」


ニナの作ったミモザのブレスレットは程よくボリュームがあり、花の可憐さが際立っていた。それを見たイリスはミモザの華やかな色彩に胸を躍らせた。


「これ、すっごくいいと思う!でも、花は枯れちゃうから…このまま綺麗に残ればすごくいい売り物になるのに…」


イリスが悩ましげにそう呟くと、後ろから黙って様子を眺めていたクライスがそれなら、と口を開いた。


「最初から枯らしておけばいいんじゃないか」


その言葉を聞いたイリスと少年少女は三人一斉に振り返り「へ?」と声を揃えたのだった。




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