学院祭準備Ⅰ
騎士科の大教室では、朝一番の授業が終わりかけた頃に教員の声が朗々と響いていた。
「今月末、学院全体をあげて学院祭を開催する。今年も各科ごとに出し物を決め、準備に励むことになる」
ざわっ、と一斉に教室が沸き立つ。
戦闘訓練や試験の話ばかりだった空気が一気に明るく華やぎ、笑い声や歓声があちこちで上がった。
「学院祭!?わーっ、楽しそう!」
イリスは椅子から飛び上がらんばかりの勢いで机に身を乗り出した。瞳をきらきら輝かせ、口元には抑えきれない笑みが浮かぶ。同じように騎士科の男子生徒達も次々と歓声を上げ、立ち上がる者達もいた。そんな生徒達に普段厳しい顔をしていることが多い教員も僅かに顔を綻ばせ「仲間との協調性を学ぶ機会でもある。存分に助け合い成功させるように」そう言い残し大教室を去っていった。
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「学院祭の話、聞いた?」
学院中はもっぱら学院祭の話で持ちきりだった。もちろんルーナ寮に戻ったイリスとリチェルも例に違わず話題は学院祭のこと。
「聞いたよ!学科ごとに色々準備するんだってね!」
「騎士科は何するの?」
「去年は模擬試合がメインで、騎士体験だったり、屋台も出してたらしいよ」
「へぇ、さすが騎士科!なんかかっこいい感じだね」
「薬学科は?」
「うちは魔法薬を使ったショーがメインで、あとは実験教室や温室の飾り付けもするみたい」
それぞれの学科ごとに特色を活かした出し物がたくさんありそうで、こうして話しているだけでもわくわくしてくる。気持ちが昂るイリスが両拳を突き上げた。
「学院祭、絶対楽しいじゃん!」
「準備は大変そうだけど、当日は一般の人も学院に入れる特別な日だからきっとお祭りって感じになりそうだよね!」
普段は勉強優先のリチェルも、流石にこの規模のお祭りのような催しには胸が踊るのか、イリスと同じように両拳をぐっと突き上げ、いつもより幾分賑やかなルーナ寮で二人は話尽きることなく笑い合ったのだった。
次の日、食堂で一緒になったエイミーとカイルから出た話題ももちろん学院祭のことだった。
「騎士科も魔法薬学科も、個性的で楽しそうですね」
「工学科が多分1番個性的だけどな」
カイルは自信満々にそう言った。
「工学科のメインはダンジョン体験!」
「え、それって危険じゃ…」
心配そうに言うリチェルに、カイルは人差し指を振って得意げに答えた。
「もちろん難易度でダンジョンは分かれてるし、基本的に魔法具を使ってクリアしていくから自分の魔力が少なくても問題ナシってわけだ!魔法具はまだ高価で市民には普及しづらいし、タダで体験できるっつーことで去年も大盛況だったんだよ」
それは確かに楽しそうだ、と全員が頷く。じゃあ、とイリスがエイミーに話を振った。
「エイミーは普通科だから…普通科って何するの?」
「そうなりますよね…はは…」
苦笑いでメガネを曇らせるエイミーに慌てて誤解だと弁明する。
「違うよ!?個性無いよねって事じゃなくて、なんでもできるから何をメインに持ってくるのかなってことだよ!?」
「イリス〜、性格悪いぞ〜」
「カイルは黙ってて!」
はは、と笑うカイルを黙らせ、エイミーの肩を揺らしながら「ごめんよ〜!」と嘆けばエイミーは「わかってますよ」と笑ってくれた。ずれてしまった眼鏡を整えながら、エイミーはえっと、と普通科の内容を教えてくれた。
「たしか、メインは魔法コンテストです」
「魔法コンテスト?」
リチェルが聞き馴染み無さそうに首を傾げた。
「魔法の独創性を競うコンテストをするんです。組み合わせたり、アレンジしたり…詳しいことはわからないんですけどね」
「へぇ、なんかすごそうだね」
お昼ご飯を口に運びながら他人事のようにそう言えば、カイルががしっと肩を組んできた。
「イリスからしたらそりゃあすごいだろうな」
「カイル…?もしかして喧嘩売ってる?買うよ?」
「うそうそ嘘!すいませんイリス様!」
拳を見せつければ、降参と言わんばかりに両手を上げ離れたカイルは謝りつつも笑っていて、全くもう、とこちらも笑うしかない。とはいえカイルの言うことも尤もで、魔法コンテストなんて私には全く縁がない催しだ。興味もあまり湧かないのが本音だったりする。
「エイミーは何やるの?」
「まだ決まってないんですけど、一般の子供たちに簡単な魔法を教える催しに参加しようかと…」
「いいね!エイミー絶対先生に向いてるよ!」
「そ、そんなことないですから…!」
でも楽しみで…小さな声でそう続けたエイミーの耳が赤く染まっていることに気付いて、その可愛らしさに胸が高鳴った。なんて可愛らしい女の子なんだろうか。守りたい、この心優しい女の子。まさに騎士科の心得だな、と勝手に頷いているとリチェルから「またなんか変なこと考えてる…」とぼやかれた。さすがリチェル、よくわかってる。ウインクしておいた。手で捕まえて投げ返されたけれど。
「リチェルって見た目はすごくほんわかして可愛いのに、割と辛辣だよね」
「イリスにだけだよ」
「え……愛?」
「うん、そうそう」
「テキトーすぎない!?」
そんな私たちを「仲良いねぇ」なんてカイルとエイミーが微笑ましく眺めながら、学院祭に心踊る穏やかな昼休みが過ぎていったのだった。




