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Prologue
昔から自分だけに聞こえる不思議な音があった。
誰かの声なのか、生き物の鳴き声なのかもわからない。
耳の奥に響く高い音。
周りの人達に何度も不思議な音がすると伝えたが、孤児院で暮らす他の誰も聞こえないらしく首を傾げられて終わりだった。いつしかこの音は自分にしか聞こえないのだと理解して、音が聞こえても何も言わなくなった。だから周りはみんな、幼い頃の一時的なものだったのだろうと思っているかもしれない。
「また、あの音だ」
目を閉じ耳を澄ませば、今日もあの高い音が聞こえてきた。そこに木が軋む音が重なり、静かな湖畔のほとりに建つ教会の扉がゆっくりと開いた。凪いだ水面から視線を上げ教会へ向ければ、穏やかな声が私を呼んだ。
「イリス、ご飯の時間ですよ。戻っていらっしゃい」
「はーい」
返事をして教会へ足を向けると、引き留めるかのように風が巻き上がる。
髪を軽く押さえながら、舞い上がる葉を目で追った。
──誰かが、私を探してる。