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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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15・2 身代わり婚から望まれ婚へ

 クラルティに帰ってから、する予定だったこと?

 なんだろう。

 気になるけれど、ドキドキしすぎて考えがまとまらない。 

 どうしよう。リシャール様と一緒にいる限り、ずっとこうなのかな。

 当主の仕事の補佐を教えてもらって、いずれは役に立ちたいのに、これではいけない。

 もっと気合を入れなければ……!


「ヴィオレッタ」

「はい!」

 ああ。リシャール様のこの眼差しは本当に苦手だ。落ち着かない。


「まだ完全ではないけれど、杖なしでも歩けるようになったし、剣も使える。以前よりは、君を守れるはずだ」

「ええ。リシャール様は頼もしいです」

 馬車が襲撃されたときは怖かったけれど、リシャール様がいてくれたから心強かった。


「ヴィオレッタもね」リシャール様が微笑む。

「そう言っていただけて、嬉しいです」

「私は妻が連続死した不吉な男だけれど、もう、その負の連鎖は断ち切れたと思う」

「そのとおりです!」


 そう。リシャール様はもう、奥様が亡くなることを恐れなくてもいいと思う。

『幸せになりたい』と言っていたし、再婚するのがいいのではないかな。私は――笑顔でお祝いできるように、がんばるつもりだ。受けた恩は、ちゃんと返すのだから。


「だから、ヴィオレッタ」リシャール様の眼差しがますます真剣なものになる。「私と結婚してほしい」

「え……」


 リシャール様が私の手をとった。


「好きだ、ヴィオレッタ。なにがあろうとも、絶対に君を守る」

 結婚?

 私が?

 リシャール様と?

 嘘でしょう?

 そんな都合のいいことがある?


 おそるおそる、

「……同情ですか」と、尋ねる。

「同情?」

「私が気の毒に見えた、とか」

「聞いてなかったのかな。好きだよ、ヴィオレッタ」


 トクンとまた心臓が跳ねあがる。そろそろ壊れてしまいそう。でも――

 

「私は貴族の教養が足りなく、今や平民で、公爵家の妻にはふさわしくはないと思うのです」

「ならば、私が平民になったら結婚してくれるのだな?」にっこり笑うリシャール様。「爵位は陛下に返上しよう。叔父上はもらってくれないし」

「リシャール様にそんなことをさせるわけには、いきません」

「ちなみに」リシャール様は、微笑みを崩さない。「陛下に結婚の許可は得た」

「え?」

「結婚立会人はトレーガー侯爵だ」

「ええ!?」


 先妻様のお父様が? 

 というか、立会人って親族とか身近なひとがするものではないの!?


「クラルティを発つ前に」とリシャール様は続ける。「教会に挙式の予約を入れたし、仕立て屋にウエディングドレスを注文するので準備をと頼んだ。余計なことかと思ったが、『王政の仕組みと変遷』の著者に挙式の参列をお願いできないかの打診もしている」

「ええええっ!?」


 少しだけ、気弱な表情になるリシャール様。

「自分から結婚を望んだことがなかったから、張り切って準備し過ぎてしまった。やはり、よくなかったのだろうか。叔父上に怒られた」

 不安げなリシャール様は、まるで耳を伏せて震えている子犬のようだ。

 私よりもずっと大人で三度も結婚をしたのに、ジスモンド様に叱られるぐらい張り切ってくれたのか。

 そう思うときゅんとした。


「そんなに私のことを考えていただけて、嬉しいです。私も、リシャール様を好きみたいで……」

「本当か!」

「はい」


 言い終えるか終えないかのうちに、手にキスをされた。長い時間、唇を押し当てられて、離れる気配がない。


「……あの、リシャール様。そろそろ心臓が爆発します」

「すまない、つい、嬉しくて。こんなに恋焦がれるのは、初めてなんだ。真っ赤な顔のヴィオレッタもとても可愛い。照れている表情も可愛い。すべて可愛い」


 どうやらリシャール様は、なにかの(たが)が外れてしまったらしい。

 それからずっと、羞恥でいたたまれなくなるぐらいに私に『可愛い』と言い続けたのだった。



◇半年後◇



 クラルティ邸の晩餐用ダイニングルーム。少し前に到着したばかりのジスモンド様に、セドリック殿下が、

「もう来ないのかと思ったぞ」と文句をつける。

「そんなはずがないでしょう。可愛い甥の結婚式なのですから」

 そう。明日はリシャール様と私の結婚式だ。

「叔父上が間に合わなかったら、延期するまでです」と、リシャール様が真顔で言う。

「まあ、ほかに親戚の出席がないからねえ」と、苦笑交じりに言うのはトレーガー侯爵。奥様とふたりで滞在中だ。


 そして彼の言葉どおり、リシャール様の親戚で出席するのはジスモンド様だけ。招待しなかったのだ。私の親族もいないから淋しいものだけど、その代わりにセドリック殿下やマグダレーナ様、リシャール様の仕事関係のひとたちが沢山、それから『王政の仕組みと変遷』の著者様まで式に参列してくれる。


 本当はキャロライン殿下も来るはずだったのだけど、ご懐妊のために欠席となった。馬車での長期移動は母体によくないものね。

 だからジスモンド様は、式が終わったらすぐに都に帰るという。

 幸せそうで、なによりだ。


「少しはゆっくりしていってくれないと、つまらない」とセドリック殿下がさらに文句をつける。「たっぷり話して聞かせたかったんだぞ。リシャールの溺愛ぶりが常軌を逸していることを!」


 え。どういうこと?


「それは言い過ぎよ。あなただって以前、王子とは思えない行動をとったではないの」と、マグダレーナ様。「でも、公爵はなかなかに嫉妬深いし、囲い込みが激しいわ」

「私が?」と、リシャール様が驚いた顔をする。

「そう!」と、声を揃えるセドリック殿下とマグダレーナ様とトレーガー侯爵。

「侯爵まで!?」

「一途なところがマティアスにそっくりだよ」と、侯爵が笑う。「息子が愛するひとを得られて、彼も草葉の陰で喜んでいるだろう」


 リシャール様が私を見る。とても嬉しそうに。

 私も嬉しくなって、その紫色の瞳を見つめ返した。



◇◇



「自覚はないのだが、私はそんなに嫉妬深いかな。ヴィオレッタは窮屈に感じているかい」

 私の部屋の前。リシャール様が送ってくれたのだけど、別れ際に彼は困ったような表情で訊いてきた。晩餐のときにマグダレーナ様が言ったことを気にしていたらしい。


「いいえ。まったく」

 よかったと顔をほころばせるリシャール様。


「リシャール様。ヴィルジニーの身代わりとしてこちらに来たときは、こんなに幸せな結婚ができるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます」

「礼を言うのはわたしのほうだ。ヴィオレッタに出会えて、人生が変わった」


『そんな大げさな』と答えようとして、彼が本気で言っていることに気がついた。

『私もですよ』と返事をすると、リシャール様は私の手をとってキスをした。


「君が想像する何百倍も、今の私は幸せなんだ。早く明日になってほしい」

「本当に。リシャール様の奥様になれることが嬉しくて。今夜、ちゃんと眠れるかが心配です」


 リシャール様は微笑むと、再び手にキスをした。


「おやすみ、ヴィオレッタ。明日は最高の一日にしよう」

「はい。素敵な結婚式にしましょうね」




『死神公爵』の通り名に怯えていた以前の私に教えてあげたい。

 リシャール様は誰よりも頼もしいひとで、あなたは望まれて結婚するのよ、と。

 今の私がどれほど幸せか知ったら、きっと驚くわね。


《おしまい》



 





お読みいただき、ありがとうございました。

最後をヴィオレッタのお話で終わりにしたかったので、節の最後に毎回つけていたリシャール視点のお話は活動報告に載せました。

ご興味がある方はのぞいてみてください。

公開は一週間程度です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2人の思いが通じ会ってからが風のように瞬殺で終わってしまってぽかん もうちょっとこうイチャラブするのかと思ってた笑
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