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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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14・6 襲撃

 どれほど経ったか。また、窓が叩かれた。

 先ほどよりもっと具合の悪そうな隊長が、『申し訳ございません』と謝る。


「脱落者が何名か出そうです」

「構わない、あとで合流を――」


 リシャール様の声が叫び声でかき消される。


「賊です! 賊が出ました――!!」

 隊長が振り返り、舌打ちをする。

「横道から、ざっと八人ほど。脇を固めます」


 そう言って隊長が離れていく。馬車の速度がますます上がる。

 リシャール様が私のとなりにすわり直して、手を握りしめてくれた。その手を握り返す。


「ダミアンが雇ったのでしょうか。ずいぶん手回しがいいですね」

 恐怖を紛らわせるため、ことさら笑顔を作って話しかける。

「ああ。テールマン子爵の到着など待たずに、発てばよかったのかもしれない」

「仕方ありません。殿下たちが滞在しているのですから」


 そんなことを話しているうちに、窓越しに見える護衛たちが苦しそうに背を丸め始めた。

 ひとり、ふたりと姿が見えなくなって、最後には隊長もいなくなってしまった。

 でも賊が追いついている様子はない。


「大丈夫でしょうか」

 リシャール様は窓の外をじっと見つめている。

「リシャール様?」

「……橋だ」

「橋?」

 おうむ返しに訊き返すと、彼が振り返った。顔が青ざめ強張っている。

「この先に、昔私が事故にあった橋がある。あのときも雨上がりだった」


 リシャール様の手を強く握りなおす。


「私がおそばにいます。もしものことがあれば、お助けします。だからなにがあっても、大丈夫です」

「……そういうのは、私が言うべきだな」

 泣きそうな顔でリシャール様が首を横に振る。

「私がダメそうなときは、助けてください」

「ああ」


 馬車が立てる音が変わる。たぶん、橋を渡っている。リシャール様が緊張しているのがひしひしと伝わってくる。

 やがて、またもとの音に戻った。

 リシャール様がほっと息をつく。


「ヴィオレッタ――」

 ガタンという音とともに、馬車が大きく傾いた。

「――っ!」

 体がすべり、リシャール様にぶつかる。

 激しい衝撃と、バキバキというなにかが割れる音、馬のいななき。

 

 なにが起こったのかよくわからないまま、気づくとリシャール様の上に倒れていた。馬車が横転している。

「リシャール様!」

「ヴィオレッタ!」


 お互いに大きな怪我はなさそうだ。

 割れた窓の隙間から、外に出る。まずリシャール様が杖を片手に。それから彼の助けを得て、私が。馬車の車輪が、地面に不自然に大きく開いた穴に落ちて壊れていた。落とし穴を掘られていたらしい。


 なんとか馬車から出てみれば、目前に顔を隠し、荒くれ者のような格好をしていた男がひとりいた。


「お貴族様の護衛ってのは、強いんだな。俺しか残らなかったぜ」

 リシャール様が私を守るかのように前に出る。右足を引きずり、杖に体重を乗せている。

 あたりにほかには誰もいない。護衛騎士たちも、後続の馬車も、賊も。

 恐ろしくて心臓が早鐘のように鳴っている。

 ダメ、落ち着くのよと自分に言い聞かせる。リシャール様とふたりで、助かるのだから。


「誰の差し金だ」と、リシャール様が訊く。

「知らねえよ。それよりほら、出せ。大事なもん」


 リシャール様は動かない。


「さっさとしねえと殺すぞ!」男が叫ぶ。

「なんのことか、わからない」

 言い争うふたり。男が剣を抜く。

 と、背後にひとの気配を感じた。

 馭者かなと思い振り向こうとしたところで、背中側から首に腕を回され引き寄せられた。

 苦しくなって咳き込む。


「ヴィオレッタ!」

「ほうら、さっさと出さねえと嬢ちゃんが死ぬぜ?」


 咳き込みながらも、私を羽交い絞めしている男を見上げる。やはり顔を隠している。

 でも、香る香水に覚えがある。ダミアンのものと同じだ。


 青ざめたリシャール様が、ふところから封書を取り出して男に渡した。男がダミアンらしき男に見せる。


「小賢しい」そう言う声は、やはりダミアンだった。「よく似た封筒だが、偽物だな。これが見えないか?」彼は私の顔のそばで、剣をちらつかせた。「早く本物を出せ」

「……ホーリーを殺したのもお前たちか?」リシャール様がダミアンを見つめながら尋ねる。

「そうだと言ったら?」と、ダミアン。


 ふたりの会話を聞きながら、必死に息を吸って気持ちを落ち着かせる。怖いけど、怯えるのはあとだ。

 ケープにしがみつくふりをして、中に隠した短剣を逆手に持った。


 手が震えそうだ。

 でも、リシャール様が本物の封筒を取り出そうとしている。

 きっと今なら、ダミアンはそちらを注視しているはず。好機だ。


 思いっきり腕を振り、短剣をダミアンのお腹に突き立てた。

 叫び声と共に、首を締めていた腕がとかれる。ドサリと倒れるダミアン。


「このっ!」男が叫んで剣を振り上げた。

 リシャール様がすぐさま杖で男の手を打つ。首に次の一撃を入れ、よろけたところで心臓を正面から突いた。

 男が倒れる。


「ヴィオレッタ! 逃げるぞ!」

 リシャール様が差し出してくれた手を握る。

 走り出そうとしたとき、馬が駆けくる音に気づいた。


 賊の仲間か、と思った次の瞬間


「公爵閣下! ご無事ですか――っ!」との声が届いた。憲兵の一団だった。


「よかった、ヴィオレッタ!」リシャール様が私を抱きしめた。「すまない、恐ろしい思いをさせて。本当にすまない」

 安堵なのか恐怖なのか。涙が出そうだ。けれど、必死に耐える。

 これ以上、彼を心配させたくない。

 安心してもらおうと、見上げて微笑む。

 リシャール様は泣きそうな表情だ。


「いえ。リシャール様がいてくれたので、大丈夫です」

「ヴィオレッタ……」


 更に強く抱きしめられた。

 少しづつ、怖さと緊張がほどけていく気がする。

 リシャール様の腕の中は、安心できる。

 私は彼を好きなのだと確信した。





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