表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/71

14・3 恐ろしい可能性

「それはどういうことですか」

 という声と共に、リシャール様が開け放してある扉から、入って来た。戸口にランスが控えている。

「怒らないでくれ」とジスモンド様。「話さなかったのは、悪かったと思っている」

「違います。都に移る件です」


 リシャール様がそばに来たので立ち上がり、椅子を譲る。

 だけど彼は『これも訓練だから』と、私を座らせた。


「転居のほうか」とジスモンド様。「お前の足はいずれ元に戻る。それだけ努力をしているのだからね。だから僕も努力するよ。いや、全力を尽くすことにする。都に移って、お前からもクラルティからも、自立する」

 それってもしかして、作家としての収入で生計を立てるということ?

 リシャール様に打ち明けるの?


「ではあちらのタウンハウスをお使いください。名義を叔父上に変えます」

 何も知らないリシャール様がそう提案すると、ジスモンド様は

「それでは自立とはいえないよ」と笑った。「援助は必要ない。隠していたけど、実はそれなりの資産がある」


 それからジスモンド様は、作家としての名声と莫大な収入を、かなり昔から得ていることを打ち明けた。折よく机上には書きかけの原稿があったし、なにより私が出版社の方との打ち合わせを目撃している。リシャール様は驚きながらも、信じざるを得ない。


 でもそのうちに、怒り出した。


「どうして隠していたんですか!」

 それはそうだ。私もとても気になっている。

「他人よりも優れている面を少しでも見せると、父上がマティアス兄に、お前ではなく私を跡継ぎにしろと迫っていたからだよ」

 そう言ってジスモンド様は困ったような顔をした。一方でリシャール様は愕然としている。


「作家になったころには父上はすでに亡くなっていたが、どこからそれを蒸し返されるかわかったものではなかったからね」

『特に陛下あたり』とジスモンド様は付け加えた。

「私が叔父上の足枷になっていたのですね」

「そうではないよ。僕は真正面から向き合わずに、逃げていただけだ。でも僕もリシャールのように、焦れるものを『欲しい』と言えるようになりたいし、言わせてあげたくなったんだ。ヴィオレッタのおかげだね」


 リシャール様が私を見る。昨夜のように真剣な眼差しで、心臓が跳ね上がる。

 鼓動があまりに騒がしくて、聞かれてしまいそうだ。


「そして僕の秘密、ふたつめ」

 え?

 驚いてジスモンド様を見る。作家のほかにも、隠していることがあったの?


「これは、たまたまそういう状態になってしまったのだけど」とジスモンド様。「高位貴族なんかの相談役のようなことをしている」

「お仕事でですか?」と尋ねる私。

「いや、無償でだ」


 ジスモンド様によると、ことは近衛見習いとそのあとに少し働いていた官僚の時代に、遡るという。

『アドバイスを求められれば、的確で有益な返答をする。貴族の出ではあるが、どこかの派閥に与することもないし、口も固い』ジスモンド様は、そんな風に重宝されたそうだ。

 そしてそれが、一部の貴族社会にひそやかに広まったという。


 彼が王宮を自由に歩いていても咎められないのは、影で彼を重宝しているひとたちがいるから。それは悪口を叩いているような人間より、遥かに力のある人間らしい。

 ジスモンド様が言う『人脈』は、実はご婦人たちではなくて、こちらの貴族たちのことだそうだ。


「だから」とジスモンド様。「頼めば、王宮で官僚か侍従として、働くことができると思う」

「叔父上――」

「これで僕の問題は解決。転居も就職も、クラルティの力はまったく必要はない」


 ジスモンド様はリシャール様の言葉を遮って、宣言した。それから指を一本立てる。

「リシャールにとって重要な話はここからだ。まずは、ホーリー」


 以前彼から聞いたところによると、三度目の結婚が決まったことを知ったのは、他国にいたときだそうだ。この結婚も急なもので、婚約期間は短かった。ジスモンド様はすぐさまクラルティ邸に駆けつけ、なんとか間に合った。


 ホーリー様とはお互いに顔は知っていたけれど、会話をしたことがあるかどうか悩む程度の間柄だったという。

 そしてクラルティ邸での彼女は、王宮にいたときとは違って、いつも神経を尖らせていた。ジスモンド様ともろくに口をきかなかったそうだ。

 やがて、ホーリー様は事故死した。


 事件後に王都へ行ったジスモンド様は、ホーリーについてそれとなく聞きまわった。けれど親しい間柄のひとはみつからず、結婚の経緯も、彼女がどう思っていたかもわからない。


 一番信憑性のある情報は、とある上位貴族が教えてくれた『陛下はクラルティ公爵に、身分が低く婚期を逃したつまらない令嬢をあてがって、悦に入ってるようだ。あれは嫌がらせの結婚だよ』というものだった。


「僕が調べたときは、キャロライン殿下の名前なんて一度もでてこなかった」とジスモンド様。

「意図を悟られないように、ご本人が隠したのではありませんか」

「そうだとは思う。だた、徹底しすぎている気もする」

「それにホーリーが漏らしていることも変ですね」とリシャール様。

「そうなんだ。はっきりしないことが多い。それが気にかかる。とはいえ、キャロライン殿下に尋ねれば、明らかになるだろう。だけどここで次の問題だ」

 ジスモンド様はそう言って、表情を強張らせた。


「ダミアンも、情報が集まらなかった」

 彼は私に向けて、『王都にいたときに必要があってね』と言い添えた。

「外見が目立つから、その点での噂話くらいならあった。だけど官吏としては、ほぼなかった。地方へ移動になったことも、話題になっていない」

「そんな人が、王太子殿下の命でマグダレーナ様の監護につくのは、不自然に思えてしまします」

「そのとおり」とジスモンド様が大きくうなずいた。「僕の知る限り、交友関係の繋がりもない」


「今回の件は怪しいということですね」そう言ってリシャール様は息を吐いた。「昨夜はすみませんでした。叔父上の心配を理解できていなかった」

「それは、もういいさ。きちんと伝えていなかった僕が悪い」


 よくわからないけれど、これで仲直りしたのだろうか。

 リシャール様の横顔を見つめていたら、『もう大丈夫』と微笑んでくれた。

 よかった。


 ほっと胸を撫でおろし、思い出したことを伝える。

「昨日、彼はセドリック殿下とマグダレーナ様が再び婚約するように、密命を受けていると話していました。でも、そのわりには部屋から出てきません」

「なるほどね」とジスモンド様。「命令自体はありうることだ。だが彼の行動はおかしい」


「ですね」とうなずくリシャール様。

 それから、

「ダミアンが王太子殿下と繋がっているとしたら、厄介だな」と呟いた。「真の目的はなんだ? ふたりで私から爵位を奪う計画でも立てているのか?」

「殿下に大きな得があるとは思えない。だが、僕たちにはわからない、何かがあるのかもしれないぞ」

 ジスモンド様とリシャール様で、考察し始める。

 ただ、私はもうひとつ、思い出したことがあった。


 王太子殿下。

 私と雰囲気が似ているホーリー様。


「リシャール様、ジスモンド様。私は一度だけ王太子殿下とお話をしたことがあるのですが」

 ふたりが私に目を向ける。

「そのときに、化粧っけがなく、根暗で弱そうだと気に入られて、侍女になれと言われました。キャロライン殿下によると、王太子殿下はお気に入りの顔を自分のまわりに置きたがるとか」

「ああ、それは聞いたことがある」とジスモンド様。

「先ほどマグダレーナ嬢が、ヴィオレッタとホーリーの雰囲気が似ていると言っていたな」と、リシャール様が目をみはる。

「はい。もしかしてホーリー様もお気に入りだった、なんてことはないでしょうか」


 不審死を遂げた、元侍女のホーリー様。

 彼女を気に入っていたかもしれない王太子殿下。

 殿下と謎の繋がりがあって、ホーリー様が亡くなった屋敷に無理やり滞在しているダミアン。



「お気に入り侍女の不審死に立腹し、それを利用してリシャール様とジスモンド様に冤罪を着せ、ダミアン様がクラルティを手に入れる。――考えすぎでしょうか」

 思いついた可能性は、あまりに突飛だ。

 でも、なぜだかこれが正解のような気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ