13・〔幕間〕 公爵閣下はケンカする
ヴィオレッタを部屋まで送り届け、自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、角から叔父上が出てきた。腕を組み、暗がりでもわかるほどに不機嫌な顔をしている。
「なにをしているんだ、リシャール」
また、こんな時間にヴィオレッタに会うなと叱られるのか?
そう考えうんざりし、叔父上に対してそういう気持ちを抱いたことに、驚いた。
「ヴィオレッタがいたから出ていかなかったが」と叔父上。「なぜ、こんな時間にひとりで歩く訓練なんてしている。取り返しのつかない怪我をしたら、どうするんだ」
そのこと?
彼女のことで怒られると思ったのだが。
ほっとはしたものの、不思議なことに、うんざりしている気分は変わらない。
「気を付けています」
「だが、階段から落ちたのだろう?」
「たまたま――」
「『たまたま』で死ぬ事故にあうことがある」と強い口調。
「わかりましたよ」
そう答えて、叔父上の横を通り抜ける。
「おやすみなさい、叔父上」
私はこれで話を終えたかった。そう伝えたつもりだった。
だけれど叔父上が横についてくる。
「訓練することには、賛成だ。次からはランスか僕を呼びなさい」
「嫌です」
「は? どうしてだ」
「誰の手も借りたくありません」
「だからって」
足を止め、叔父上を見る。
「これは自分で解決すべき問題です。他人の力を借りたら、ヴィオレッタに自信を持って求婚することができません」
「それは立派な考えだよ。でも、なにを企んでいるのかわからないダミアンがいるんだぞ。階段で突き飛ばされでもしたら、おしまいだ。ひとりでやるな。僕たちを頼れ」
「叔父上だって! ひとりで抱え込んで、私にはなにも言わないではありませんか!」
思わず、口調が強くなった。叔父上が驚いている。
「気づいていないとでも?」勢いに乗って続ける。「都を出て以来、ずっとなにかに心を煩わせていますよね。叔父上は普段どおりにしているつもりでしょうが、差がわからぬほど私の目は節穴ではありません」
「別に僕は――」
「ほら! 叔父上は私を頼らない。なのに私に頼れというのは、説得力に欠きます」
叔父上が私を本気で心配していることも、幸せを願ってくれていることも、わかっている。だけど足のことだけは、どうしても譲れない。
妻たちが次々に不審死する呪縛を断つためには、生半可な気持ちではダメなのだ。
「叔父上が望むなら、爵位は譲ります。あなたが私に望むように、私はあなたに幸せになってもらいたい。でも」すっかり無表情になってしまった叔父上の顔を、しっかりと見据える。「そんな叔父上でも、訓練の件だけは絶対に介入してもらいたくないのです。では、おやすみなさい」
返事を待たずに、歩き出す。
叔父上は、ついてこなかった。
私が拒んだことよりも、彼が抱えているものに気づかれていたことが、ショックだったのかもしれない。
だが、これだけは譲れない。
絶対に自分の力だけで、以前の体に戻るのだ。
なにがあっても、ヴィオレッタを守れるように。
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