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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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13・4 深夜の訓練

 寝付けない。おぼろげに見える天蓋をみつめることにも、飽きてしまった。

 こんなのは、セドリック殿下が現れた夜以来だ。

 あの時はリシャール様に、自分がヴィルジニーではないと打ち明けていないことを、悩んでいた。

 今は、ダミアンのせいだ。

 気持ち悪いし、恐ろしい。


 どうして、あんなに失礼で軽薄な人が、マグダレーナ様の監護責任者になれたんだろう。

 マグダレーナ様もセドリック殿下も、今回のことがあるまで彼を知らなかったという。


 ジスモンド様も、王太子殿下と繋がりがあるような役人ではなかったはずだ、と首をひねっている。それに彼によれば、恐らくはキャロライン殿下もダミアンのことを、よく知らないだろうとのことだ。知っていたなら、監護責任者にしたり、クラルティ邸に寄こしたりしないはずなんだそうだ。

 私もそう思うし、セドリック殿下も『そのとおり!』と賛同していた。


 ただ、あんまり彼を悪く言い過ぎると、マグダレーナ様が責任を感じてしまいそうなので、私もみんなも気をつけている。

 その気配を感じ取って、ダミアンは増長しているのかもしれない。

 一日も早く、監護責任者が交代してくれるといいのだけど。

 ダミアンとどこで出くわすかと思うと、屋敷の中でさえ安心できない。

 

 ため息をつき、目をつぶる。


 私はすっかり贅沢になってしまったみたいだ。

 しっかり寝て、しっかり体を休めて、明日はもっと前向きな思考ができるようにしなければダメだ。


 よし、寝るのよ!

 自分にそう言い聞かせたとき、悲鳴のような声と、ドサドサと何かが転がり落ちるような音がした。

 すぐに静寂が戻る。


 今のはなんだろう。

 起き上がって、耳を澄ます。

 もう、なにも聞こえない。

 だけど悲鳴は、リシャール様の声に似ていた気がした。

 うかつに部屋を出てはいけない。もしダミアンに会ったら大変だもの。

 でも、もし本当にリシャール様だったら?

 もし、ひとりで困っていたら?


◇◇


 恐る恐る角から顔を出し、階段を見る。踊り場のあたりに、座り込んでいる人影がある。

 やっぱりさっきのは、落ちた(・・・)音だったのだ。人影は足をさすっている。

 暗いから誰なのかは見えないけれど、彼は多分――


「リシャール様?」

 恐る恐る尋ねると、勢いよく人影がこちらを見上げた。

「ヴィオレッタ!」

 リシャール様だった。

 手にしていた武器代わりの燭台を床に置き、急いで階段を降りる。


「大丈夫ですか!?」

「夜中にひとりで出てはいけない!」

 彼と私の声が重なる。

「リシャール様の声だと思ったんです! それに念のために武器も持ってきました! それよりお怪我は?」

「……ない」


 そう答えたものの、リシャール様は顔をそらした。

「本当ですか? 動けないのではありませんか?」

「大丈夫だ。ただ」リシャール様はため息をついた。「あまりに情けなくて、動く気になれなかっただけだ」

「階段を踏み外すことぐらい、誰にでもあります。杖はどちらに? もっと下に落ちましたか?」


 辺りを探すけれど、みつからない。


「……いや。部屋に置いてある」とリシャール様。「杖なしで歩く練習をしていた」

「まあ」足の不具合は精神的なものだという話を思い出す。「素晴らしいと思います。でも、どうしてこんな夜中にひとりで。危険です」

「誰にも知られたくなかったんだ。驚かせたくてね」


 リシャール様が私を見る。怯んでしまうほど、まっすぐに。


「ヴィオレッタを守れるようになりたい」

 真剣な眼差しと声音に、ドキリとする。


「今でも十分守っていただいています」

「私はそうは思わない」

「そんなことはないですけど、お気持ちが嬉しいです。でも、無茶はしないでくださいね」

「これでも、かなりマシになったんだ」


 リシャール様はそう言って、ひとりで立ち上がった。確かに、思いの外スムーズな動きだった。

 そういえばダミアンに杖を向けたとき、重心が安定していたような気がする。


「いつから練習をしていたのですか?」

「屋敷に帰って来てからだ」

 それならひと月半ほどだ。そんな短期間でここまでになるとは。とても努力したに違いない。




『ヴィオレッタを守れるようになりたい』

 リシャール様の声と眼差しがよみがえる。

 なぜだか、ひどく鼓動が速い。




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