13・2 リシャールの従弟
マグダレーナ様は、とても素晴らしい令嬢だ。美しくて気品があって、淑やかで芯の強さがあって、勤勉で博識で、そしてとても優しい。
セドリック殿下がどうして彼女よりヴィルジニーを選んだのか、まったくわからない。
ジスモンド様は『男女のことは、そう簡単にはいかないんだよ』と笑っていたけれど。私は圧倒的に、マグダレーナ様派だ。
とはいえ元婚約者たちは、私たちが心配したような状況にはならなかった。案外うまくいっている。間にジスモンド様や私が、挟まってはいるけれど。
ちなみにリシャール様は『女性は苦手だ……』と言って、対応をさりげなくジスモンド様に押し付けている。
でも多分そのことに、マグダレーナ様は気づいていると思う。とても聡明な方だから。
特にリシャール様が領主としての仕事を教えてくれる時間に、彼女の優秀さが際立つ。私なんて知らないことばかりだけれど、彼女は基礎知識がしっかり入っていて、その上で素晴らしい質問をしたりする。もちろんのこと、覚えも早い。
リシャール様は私も十分よくできていると褒めてくれるけど、自信喪失気味だ。
「あら、そんなことはありませんわ」
お茶の時間。テーブルについているのは、マグダレーナ様とセドリック殿下、私の三人だけなので思い切って悩みを打ち明けたら、彼女はきっぱりと否定した。
「私が並外れて優秀すぎるだけよ。王妃になるための教育を受けてきたのだから、あなたとは、現在持っている能力が違うの」
確かに、私は最低限しか家庭教師がついていなかった。
「いいこと?」とマグダレーナ様。「ヴィオレッタ様は、今スタートラインに立ったばかりなの。これからの努力次第で、いくらでも私を追い越せるわ」
「せめて、マグダレーナ様に追いつけるようにがんばります!」
「俺だって、ヴィオレッタには負けないぞ」とセドリック殿下。
そこへ、
「やあ、楽しそうですね」と言いながら、ダミアンがやって来た。
彼はブランドン殿下の依頼書を振りかざし、クラルティ邸に居座っている。
でも実はマグダレーナ様も彼が苦手らしい。
そしてセドリックが言うには、なんで保健省の役人と兄に繋がりがあるのかが、わからないという。
ダミアンは、クラルティ邸で完全に浮いている。だけど本人は、どこふく風だ。
とはいっても、たいていは部屋に閉じこもっている。なにをしているのかは、誰も知らない。
ただ、出てくると、こんな風に気軽に声をかけてくるのだ。
「ヴィオレッタ」とダミアンが私を見る。「少し庭の散歩に付き合ってくれ」
「ダメだ!」と私が断るより先に、セドリック殿下が言った。
「なぜですか」と、笑顔を崩さないダミアン。
「そういう質問をしているところが、信用ならない」
セドリック殿下が言うと、マグダレーナ様も優雅にうなずいた。
「困ったな」とダミアンは笑うと、「ではまた今度にしますよ」とセドリック殿下に言い、マグダレーナ様と私には「では、失礼を。お嬢様がた」と、わざとらしく挨拶をして、去って行った。
彼の姿が完全に見えなくなると、セドリック殿下とマグダレーナ様が、揃って私のほうへ身を乗り出した。
「絶対に、ふたりで散歩をしてはダメ!」
「ええ。もちろん、そんなつもりはありません」
ダミアンは、リシャール様への態度がずっとひどいままだもの。
「だがな」とセドリック殿下。「兄上が気に入っているということは、ヤツは抜け目のない優秀な男だということなんだ。気をつけろよ」
「ヴィオレッタ様は『クラルティ公爵のことで』と言われたら、きっと誘いを受けるわ」
確かにそうかもしれない。
「絶対に、なにがあっても断るのよ」と、マグダレーナ様。
「わかりました。そうします」
私だって、彼は苦手だもの。近づきたいとは、思わない。
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