表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/71

10・〔幕間〕公爵閣下は思い出す

 ヴィオレッタを部屋に送り届け、ひとりで自室に向かって歩いていると、

「どうして先に帰ってしまうんだ」と背後で叔父上の声がした。

「お邪魔してはいけないと思いましたから」と振り向いて答える。


 だから侍従に伝言を託して先に散策をやめたのだが、どうやら叔父上は追いかけてきたらしい。


「リシャールのために衆目を集めていただけじゃないか」

「そうですか。良い雰囲気だったので」

「ギスギスとした雰囲気で散策する理由がない」

「それはそうですが」


 ふたりで並んで歩く。先ほどまで以上に、行き交う人々の視線を感じる。叔父上はいつでも注目の的だ。物珍しい私よりずっと、人目を集めるらしい。


 そんな叔父上の恋の多さは伝え聞いている。だがその相手に会ったことはない。私は領地を出ないし、叔父上は相手をクラルティに連れてこないからだ。

 だから、彼のキャロライン殿下に対する態度は、私が知らないだけで、特別のものではない可能性もある。

 それでも、叔父上は彼女に好意があるのではと疑うほどに、良い雰囲気だと感じるのだ。


 だが王宮(ここ)に来て、無爵位というのがいかに立場がないか、思い知らされた。叔父上はひょうひょうとしてかわしているけれど、あからさまに軽視されている。とくに男性陣から。それでも王宮内を自由に闊歩しているのだから、仕組みがよくわからない。


 だが少なくとも、王女との結婚は不可能に近いということだけは、確かだった。


「僕から見たら、リシャールたちも良い雰囲気だった。なにを話していたんだい」

「私の呪いについて」


 叔父上の顔から笑みが消えた。


「それでもクラルティ邸に来てくれるかを、尋ねました」

「彼女は来ると言っただろう?」

「なんでわかるのですか」

「わかるよ」叔父上の顔に笑みが戻っている。「ヴィオレッタはそういう子だ」


「叔父上にもランスにもアルフレードにも言われていましたが」ヴィオレッタに言われたことを思い返す。「彼女の言葉で初めて、母は私を呪わなかったと信じられましたよ」

「それはよかった。それで?」

「それで、とは?」


「ほかに……いや」となぜか叔父上は嘆息して額を押さえた。「いいさ、ゆっくり進みなさい。どちらも常軌を逸してニブイようだから」

「どういう意味ですか」

「こっちのことだよ」


 ニブイとは、私のことなのか? 


「ヴィオレッタのことで、察せていないことでもありますか」

「そういうのは本人に訊きなさい。もっともないと思うけれどね」


 よくわからないが、ないのなら安心だ。

 共にクラルティ邸に帰れることも確定したし――ああ、そうだ。大切なことがあった。

 叔父上に、セドリック殿下を預かることが決まったと伝える。


「驚きだな。まさか陛下が許可をするとは。なにを企んでいるんだろう」

 首を捻る叔父上。

「なんでも構いませんよ。ヴィオレッタも年が近い者がいたほうが、楽しいでしょう」

「……そうかもな」 

「私も仕事がある以上、つきっきりではいられませんからね」


 それから、声をひそめて、殿下から聞いた陛下の話をする。


「ふうん。あの陛下に初恋ね。そんな可愛げがあったのか」

「それを聞いてしまうと、今までのことも許そうかという気になりますね」

「人が良すぎるぞ、リシャール!」


 そういえば、と思い出す。いつだったか叔父上が陛下は『ますます狭量になった』と話していた覚えがある。確か、寵臣に裏切られたとかなんとか。


 なんとはなしに叔父上に尋ねる。

「ああ、二年……いや、三年前になるかな」と叔父上が宙を見上げる。

「お前にも話したことがあるはずだ。都で危険な薬がはやった。使い始めは良い気分になるだけだが、中毒性があり、やがて廃人になる」


 確かに、聞いた覚えがある。


「それを流通させていたのが、陛下が重用していた男でね。伯爵家の次男だったが、副大臣に採用して、いずれは爵位も授けるおつもりだったようだ。だが彼はライバルにその薬を盛って、排除もしていた」

「酷い話ですね」


 陛下は陛下なりに大変だということか。

 同情はしないが、せめてセドリック殿下は責任をもって預かろう。



 私の私室にふたりして入り、円卓に向かい合わせにすわる。

 すぐにランスがやってきた。銀の盆を差し出す。一通の手紙が乗っている。


「アルフレードからです」


 思わず叔父上と目を合わせた。アルフレードは用もないのに手紙を寄こしたりはしない。

 すぐに開封をする。


「なんだって?」と心配そうな叔父上。

「――私たちが発った数日後に、ダミアン・テールマンが突然やってきて、滞在しているとあります」

 叔父上もランスも眉をひそめる。


 ダミアンは父のすぐ下の弟の息子だ。どこかで官吏をしていたはずだが、親交はほぼないから詳しくは知らない。

 叔父はクラルティが持っていた子爵位を受け継いでいる。だが、彼が亡くなったら私の息子が受け継ぐ決まりだ。ダミアンはそれが気に食わないらしく、私を嫌っている。


 そんな彼が、なぜ急にクラルティ邸に来たのだ。


「叔父上、彼のことをなにか聞いていますか」

「いや。ここ何年かはなにも」

「またリシャールに言いがかりをつけにきまっている」とランスが不機嫌な声を出す。


 最初の妻が亡くなったとき、母の呪いのせいだと思った私は、『二度と結婚しないし、子を持つつもりもない』と宣言をした。


 だがトレーガー侯爵が強制的に縁組をして、再婚することになってしまった。そのときに彼がわざわざクラルティ邸にやってきて、文句を言ってきたのだ。『なぜ結婚をするのだ。約束を果たせ』と。


 どうやら彼は、自分が次の公爵になれると考えていたらしい。直系は私で終わり。父に他に子はいない。祖父に遡ると、長男が父、次男がダミアンの父だ。おおむね順当とは言える。


 だが宣言をしたときに私が想定していた爵位継承者は、叔父上だ。本当ならばすぐにでも、譲りたかった。叔父上が頑として首を縦にふらなかったから、今でも私が爵位を持っているだけに過ぎない。


 手紙に目を落とす。

「――私の戻りを待つと言っているようです」

「アルフレードに、追い出すよう、言え」と叔父上が珍しく冷ややかな声を出した。「王子を連れて帰るんだ。不愉快な状況をつくってはならない」

「ダミアン様は執事の言うことなどききませんよ」とランス。

「確かにそうだな。わかった、僕が手をまわそう」

「そんなことができるのですか」


 叔父上は微笑んだ。

「僕の人脈はすごいぞ。だてに遊んでいるわけじゃない。ほぼご夫人だけどね」

「そうですか」

 それはいかがなものかと思うが、今ばかりは助かる。あんな男にヴィオレッタを会わせたくない。


 再び手紙に目をやり、その拍子に突然思い出した。


 母の最期の言葉を呪いだと言い出したのは、ダミアンだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あれー。新しい黒よりグレーのおっさんが(あんたは叔父様なんて敬称つけてやらないもんね)出て来ましたね。しかも、概ね当初の想像通りが、叔父様からダミアンに移動してほぼ遜色なしだよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ