9・4 またも危機!
お母様のお墓参りに、リシャール様とイレーネ、ランスの四人で行った帰り、みんなでクラルティ邸へのお土産を買うことにした。
リシャール様とランスは都へ来るのは二回目で、イレーネは初めて。本当ならば案内するべき私も、ろくに屋敷の外に出たことがなくて、自信を持って連れて行けるのは書店と図書館だけというダメっぷり。
こういうときに頼れるジスモンド様は、恋人との逢瀬に行ってしまったみたい。
仕方ないので観光地図を頼りに、四人で街をまわっていたのだけれど――
気がついたら、私だけはぐれてしまっていた!
なぜだろう。ちょっと前まではリシャール様がとなりにいたし、みんなとおしゃべりをしていたはずなのに。
いいえ。理由なんてどうでもいいの。はやく合流しないと。きっとみんなも心配している。私は都育ちだから、迷子になったって平気だけど。
……嘘。全然平気ではないわ。
どうしよう。
ひとりで街を歩いたことなんてない。書店も図書館も、執事が案内してくれていたのだもの。
泣きたい気持ちで、懸命に歩く。来たほうに戻れば、と考えてもどちらから来たのかがわからない。
思い切って、憲兵に助けを求めたほうがいいのかも。
だけれど憲兵たちは、カヴェニャックの娘に良い印象を抱いていない。正直なところ、怖い。
どうしよう。
リシャール様たちの姿が見えないか、覚えのある景色はないかと探しながら歩く。
「あれ、カヴェニャックか?」
そんな声と共に、ぐいと肩を後ろに引っ張られた。知らない男性だった。粗野な感じがする。
「化粧が薄いけど、そうだよな」
男がぐいと顔を近づける。
「それは妹だと思います」
「んじゃ、カヴェニャックだ」
「……はい」
なんとなく、よくない予感がする。
「捕まったって聞いたが、違うんだ」
「いえ妹は――」
「双子の姉がいるらしい」別の男がそう言いながら近づいてきた。「こいつはそれだな。まあ、どっちでもいい。運が向いてきた」
男がニヤリとした。
どう見ても、友好的ではない。逃げないとダメそう。
静かにあとずさろうとしたそのとき、お腹に激しい痛みが走った。
「おいおい、どうした、気分が悪いのか」
男がそう言いながら、倒れかけた私を抱き留める。
耳元に寄せられた口から、
「これ以上殴られたくなかったら、おとなしくしろ」
との声。
私、殴られたらしい。
どうして?
恐怖と激痛で、頭がまわらない。
私、どうなるの……




