1・3 先妻様たちの死因と執事長
長い廊下を進みながら、執事長が慇懃な態度で、クラルティ邸での生活について説明をする。要約すると、誰もお前を歓迎していない、余計なことはするな、ということだった。
そして、ところどころで、『こちらが最初の奥様がバルコニーから転落した部屋』、『窓の外に見える堀が二番目の奥様が溺死した場所』、『あの部屋のマントルピースが、三番目の奥様が転倒したさいに頭を強打したもの』という解説が入った。
不思議なことに、私に恐怖を与えると言いつつも、先の奥様たちが亡くなった部屋を私に使わせることはしないらしい。
配慮ではなく、きっと使用人部屋に案内されるからだろう。
――そう思ったのに、私に与えられたのは美しい客間だった。私専用だという若いメイドがひとり控えている。
「こんなに素敵なお部屋を使ってよいのですか?」
「クラルティ公爵夫人になるのですから」と無表情で答える執事長。
つまり、『結婚にどのような理由があろうとも、公爵家の誇りにかけて、身分にあった部屋を用意する』ということだろうか。
真意はわからないけれど、当面はここで暮らすのだ。執事長に、いくつかの質問をさせてもらう。
「公爵閣下はおみ足が?」
「事故の後遺症で右足が少しだけ不自由でございます。ですから、挙式のときは杖に気を付けて、離れてお歩きください」
「わかりました。――先の三人の奥様は皆さま事故でしょうか。世間では公爵閣下が殺害しているとの噂がありますが」
「事故でございます」執事長の語気がほんの少し強まった。
「旦那様は心を痛めているんですよ!」
そう言ったのはメイドのイレーネだった。
執事長が彼女をにらみつける。
「失礼しました」と謝るイレーネ。
この様子だと――
「閣下は私との結婚は望まないのに、押し付けられたのですね」
返事はない。
「私が『四人目』になるのとならないの、どちらのほうがよいのでしょうか。もちろんのこと、私はなりたくありませんが」
「旦那様は『余計なことはするな』とおっしゃったかと思います」
「この質問は余計なことに入りますか」
力強くうなずく執事長。
そうか。また失敗してしまったみたいだ。
「いつも私の話は直截過ぎると叱られているのです。加減がわからずにすみません。閣下をはじめとした皆様に、ご迷惑をおかけするつもりはありませんので、お許しください」
クラルティ公爵が血に飢えた殺人鬼で、犠牲者がほしくて積極的にヴィルジニーとの結婚を望んだならばともかく。そうでないというのなら、なるたけ負担にならないようにしたい。
でも、これだけはお願いしたい。公爵の許可も得たもの。
「あと最後にひとつ。なんでも構わないので本を何冊か、なるべく早めに貸していただけますか」
これだけ立派なお屋敷なのだから図書室のひとつやふたつ、あるはずだ。でもきっと、私はむやみに出歩かないほうがいい。
執事長は、後で届けると約束をして去っていった。