8・2 国王との対面
私が通されたのは、議会場という部屋だった。高い位置に玉座があり、向かい合う形で半円状の席が並んでいる。その玉座と席の間に立たされた。
だけど、ひとりではない。みんな一緒。私を守るかのように、囲んでくれている。
セドリック殿下は議会場に入る前に。侍従にどこかに連れて行かれそうになったけど、頑なに拒んで共に来てくれた。
玉座にすわる国王は子供たちと同じ、銀の髪に緑の瞳で、けれど彼らとは違ってひどく神経質そうな顔をしている。
そのほか、席にすわっているのは全員男性。室内にいる女性は私とキャロライン殿下しかいない。
そのキャロライン殿下が、ビシリと敬礼をした。
「近衛騎士特別編成部隊、ただいま帰還いたしました」
とても凛々しくてカッコよかったけれど、国王は嫌味たらしく鼻を鳴らした。
「ずいぶんと遅かったな。セドリックが無事だったのはよかったが、やはり女のお前には近衛騎士なぞ荷が重かろう」
「そのようなことはございません、陛下」
国王がまたも鼻を鳴らす。
どうやらキャロライン殿下が近衛騎士であることが、不満みたい。
「セドリック」と国王は顔を彼に向けた。心なしか声が甘くなっている。「その女から離れなさい」
「嫌です」セドリック殿下は、ぷいっと子供みたいにそっぽを向く。
「陛下」と代わりにキャロライン殿下が声をかける。「クラルティ公爵がお越しになっております」
「クラルティ?」と国王はわざとらしく視線をさまよわせる。「あの金髪碧眼の美しい一族がここにおったかな」
……なんなの、この茶番。
一国の王がする態度なの?
まるで子供じゃない。
と、リシャール様が前に進み出た。
「残念ながら容姿の血は受け継ぐことができませんでしたが、現在のクラルティは間違いなくこの私です、陛下。お久しぶりにございます、リシャール・クラルティです」
国王が鼻白むのがわかった。きっと、リシャール様を怒らせるつもりだったのだ。
「先にお知らせしたように、陛下が私に命じた婚姻の件で、大切な話がございます」
国王が面倒そうに手を振る。
「カヴェニャック伯爵家の者は全員、反逆罪を適用する。その女を憲兵に引き渡せ」
「彼女は父親に脅されていたのです」
「だとしても、家門全体の問題なのだ」
リシャール様、セドリック殿下に、ジスモンド殿下、キャロライン殿下までが反論する。侃侃諤諤の激しい言い争い。
どう見てもこれは、私が罰を免除してもらえるような状況ではない。
クラルティ邸に帰りたかったけれど、諦めるしかないのだわ。
息をひとつ吐くと、勇気をふるって手を挙げた。
国王が気づき、目が合う。
みなが口を閉じてくれて、議会場は静まり返った。
「……なんだね」と国王がついに尋ねてくれた。
「発言のご許可をくださり、ありがとうございます」声が震える。でも噛まずに言えた! 「カヴェニャック家長女ヴィオレッタでございます」
「……で?」
「この度は王命に背き、申し訳ございませんでした。どのような事情があろうとも、背いたのは事実、罰を受けるのは当然と考えております」
「当たり前のことではないか」
はい、とうなずく。
「ですがやはり、重罰は怖いのです。それでも入れ替わりを自らクラルティ公爵閣下に明かしたのは、親切な閣下を困らせたくなかったからです。閣下はこれまでの奥様のように私も事故死するのではないかと、非常に心配してくださっていました」
ふう、と一度息をつく。
「私が重罰を受ければ閣下をはじめとした皆様は、お心を痛めることでしょう。私自身のためにも、皆様のためにも、陛下にお願い申し上げます。どのようなことでもいたします。刑を、ほんの少しでよいのです、閣下たちが納得できるものにしていただけないでしょうか」
頭を下げて返事を待つ。
「私からも」とリシャール様の声がした。「これ以上、私に関わる女性を不幸にしたくありません。どうぞご寛容なご判断をお願いしたい」
長い沈黙が降りた。
どれほど経ったか、国王は、
「全員下がるように。再検討は、しよう」
とだけ言ったのだった。




