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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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6・〔幕間〕公爵閣下は消沈する

 廊下を戻る。仕事を投げ出して、外に行ってしまった。早く執務室に帰って、続きをやらねばならない。先日起きたトラブルのせいで立て込んでいるのだ。

 余裕があれば私も叔父上たちに交ざるのだが。とはいっても――


 動きの悪い右足を見る。


 この足では剣術はできない。以前はそれなりの腕前だったというのに。

 ヴィオレッタに、あの頃の私を見せることができたなら――。


 いや。見せたからどうだというのだ。


「気にすることはない」

 となりを歩くランスの声に、彼を見た。

「王女殿下はリシャールのことを何も知らない。貶めたいだけだ」

 うつむき、また足を見る。


 ヴィオレッタの身の振り方を話していたとき、最後にキャロライン殿下が言ったのだ。

『クラルティは、女性が三人も変死した屋敷だ』と。

 それは事実だ。間違いない。


 そして、私はヴィオレッタが私の妻にならなければ、この変死事件に連なることはないと考えているが、その確証はないのだ。むしろこの仮定は私の願望に過ぎないのかもしれない。母が他界して以降私が結婚するまでの間、屋敷に使用人以外の女性がいたことがないのだから、真実はわからないのだ。


「王女殿下は愛想よくしてはいるが、心の中ではリシャールを疑っている」

「それが世間一般の私への評価なんだ」と自分に言い聞かせるように返す。

「滞在させてやるというのに、失礼極まりない」

 ランスはキャロライン殿下に腹を立てているらしい。


 だが彼女は王族で、叔父とも親しい。無下にはできない。それにヴィオレッタを気に入ったのは良いことだ。いずれ陛下と相対するときに、味方になってくれるだろう。


 そう説明するとランスは嘆息した。

「本心じゃないくせに。彼女が気に食わないのだろう? ヴィオレッタ嬢を侍女にだなんて言い出したから」

 ランスを見る。

「――王宮では好奇の目にさらされる」

「だが王女殿下の後ろ盾は大きい」


 そのとおりだ。国王の命に背いたカヴェニャック伯爵は、重罰を免れ得ない。ヴィオレッタが被害者として認められたとしても、立場は微妙なものになるだろう。『死神公爵』と揶揄される私より王女のほうが、彼女を守ることができる。


「だが王女殿下は噂を信じ、リシャールに不審を抱く程度の人間だ。ヴィオレッタ嬢を託すに問題ない相手とは思えない」

「そうだ。それだ」


 足を止めてランスを見た。侍女の提案を聞いてから、ずっともやもやを感じていた。それを彼がうまく言語化してくれた。

 さすが、乳兄弟で誰より私をよく知るランスだ。

 だが彼は、浮かない顔をしている。



「なあ、リシャール。俺はお前にこれ以上、傷ついてもらいたくない」

 目を伏せる。私だって、嫌な思いをしたくてしている訳ではないのだ。

「だというのに」とランス。「お前は人が良すぎる。頼むからもう少し、用心深くなってくれ。三人の奥様方は事故ではないかもしれない。わかっているだろう?」


 ランスを見て、そうだな、とだけ答えてふたたび歩き始めた。

 彼は叔父上を疑っている。昔はとても懐いて信頼していたのに、それを全て忘れたようだ。いくら私が取りなしても聞き入れない。私を案ずるがゆえのことだから咎めるつもりはないが、悲しくはある。

 私には、友人といえるのがランスと叔父上しかいないのだから。


 ふと、ヴィオレッタの顔が浮かんだ。

 彼女は友人ではない。偶然知り合っただけの、他人だ。

 けれどヴィオレッタと書物の話をするのは楽しい。





 もしかして彼女をクラルティ邸に引き取る、というのは私のワガママな願望から考えついたことなのだろうか。


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― 新着の感想 ―
これってももしかすると執事さんが怪しいのでは…。 『私が奥様と呼ぶのは、リシャール様のお母上、前公爵夫人だけです』とか言って次々嫁を排除してるとかさぁ。 叔父様が結婚しないのって王女様が好きだからとか…
[一言] いやー。 叔父様を、仮に白もしくはグレー置きすると、怪しいのはもう1人貴方ですよ従者さん。 君もおじ様も、奥方が次々死んで四面楚歌になった公爵様が、自分を頼るだろうみたいな思考になってもおか…
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