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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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5・4 保護者リシャール

 応接室はものものしい雰囲気だった。長椅子にひとりですわったキャロライン殿下の後ろに、ズラリと近衛騎士が並んでいるのだから、威圧感がたっぷりすぎる。


 その向かいの長椅子にはリシャール様。隣には私。ジスモンド様は脇のひとりがけにすわり、セドリック殿下は離れた円卓の椅子に、ふてくされた顔で腰掛けている。

 彼は庭から応接室に着くまでの間、ずっと姉に反論をしていたのだけれど、ほんの僅かな賛同も得られなくてあのような態度になってしまった。


「では説明してもらおうか。事実だけを端的に頼む。セドリックのような感情論と泣き落としはいらぬ」

 足を組んでそう言うキャロライン殿下は、王女というより尋問官のようだ。ちょっと怯んでしまう。


「ヴィオレッタ嬢の経緯については、後ほど本人から説明してもらいます」とリシャール様。「ただ彼女はずっと、ヴィルジニー本人ではないと知られたら死罪になると怯えていました。そこはご配慮いただきたい」

 キャロライン殿下がジロリと私を見て、おもむろにうなずいた。


 配慮をしてくれるということ?

 庭では『覚悟しろ』と言ったのに?

 今も、『そんなものするか』とあしらわれると思ったのだけど。もしかしたら、それほど厳しい方ではないのかも。

 ほっとしていると、なぜかにこにこしているジスモンド様と目があった。


「彼女がクラルティ邸に到着したのが、五日前の午後で――」とリシャール様が説明を始める。「一昨日に叔父が到着して初めて、私と使用人たちは彼女がヴィルジニーではないと知りました」

「私も本人と直接の面識はありませんが、明らかに態度も雰囲気も、思考も違うのでそう判断しました」とジスモンド様が言い添える。


「ただ」とリシャール様が続ける。「先ほども言ったとおり、彼女は正体が発覚することを恐れているようでした。だから我々は、まずは彼女の信用を得るべきと考えたのです」

「ふむ」

「そして昨日、彼女が自ら真実を打ち明けてくれました。その後にセドリック殿下が訪れ、今にいたるというわけです」


 リシャール様の説明は多くのことを省いているし、順番が事実と違う。セドリックのケガについても。

 彼は姉姫に嘘をついたけれど、そのことをリシャールに伝える時間はなかったはずだ。ジスモンド様も私も、みんなキャロライン殿下と共にここに来たから。

 一緒ではなかったのは――イレーネだわ。彼女がリシャール様に伝えてくれたのかもしれない。


 ぎろり、とキャロライン殿下が私を見た。

「ではヴィオレッタ嬢。そなたがヴィルジニーとしてここに来た経緯は」

 私の番だわ!

 心持ち背筋を伸ばす。

「妹がこの結婚をしたくないから、私が代わりになればいいと言い出したのです。父も賛成しました。それでヴィルジニーとして、こちらに参ったのです」

「なぜ従順に従った。理由は?」とキャロライン殿下。

「そうするしかなかったのですよ」と、なぜかリシャール様が語気強く言った。「彼女は父親に使用人を盾に逃げることを禁じられ、旅には護衛と称する監視をつけられていたのです」


 キャロライン殿下がリシャール様に視線を移した。


「彼女はカヴェニャック伯爵とヴィルジニー嬢の被害者です」とリシャール様が言った。

「僕も同意見です」とジスモンド様。

「……そうなのだろうと思う」セドリック殿下まで、そんなことを言う。「彼女に会ってまだ一日も経っていないが。神がかった演技力があるのでなければ、ヴィルジニーは俺に姉について酷い嘘をついていた」

「セドリックが盲愛していたヴィルジニーをそう評するならば、それが事実である可能性が高いのだろう」


 キャロライン殿下は厳しい顔つきを私に向ける。


「だが、そう断定はしないぞ。判断はカヴェニャック伯らの話を聞いてからだ」

 はい、とうなずくと彼女は表情をほんの少し和らげた。

「素直なところは好印象だ」


「殿下」とリシャール様が話しかける。「実はカヴェニャックの調査をする予定です」

「別人と判明したからだな」

「それもあります」とリシャール様。「それから陛下にも、婚姻中止と一連についての報告、カヴェニャック伯爵並びにヴィルジニー嬢の身柄確保を進言する使者を立てました」

「ふむ。妥当な対策だ。が、あなたらしくはないな。父とは極力関わらないようにしているのが常ではないか」


「私の意思を無視して二度も縁組みを、しかも今回は懲罰代わりにされたのだから、私とて腹に据えかねています」

 リシャール様の声は今まで聞いたことがないほど、鋭かった。

 キャロライン殿下が眉をひそめる。

「その代わり、というのではありませんが、今回のことは私の意見も取り入れていただきたい」


「二度? どういうことだ?」と、セドリック殿下が声を上げた。

 リシャール様がセドリック殿下のほうを向く。

「前回の婚姻も、陛下に押し付けられたのです」

「それは姉上と仲の良かったホーリーだろう? 公爵が嫁探しをしていたからじゃなかったのか?」


 え? 私が聞いているのとは事情が違う。


「私はそんなことを望んだことはありません」とリシャール様が答える。「最初の妻が事故死したときに、二度と結婚はしない、子はもうけぬと宣言をしているし、陛下もご存知です」

 セドリック殿下はリシャール様の返答が不満なのか、首を傾げている。


 リシャール様は、ふたたびキャロライン殿下を見た。

「ホーリーは殿下と親しかったのですか。ならば『三人目』にしてしまったことは、お詫び申し上げます」

「……あなたが殺したのか?」

 固い表情で尋ねるキャロライン殿下。

「いいえ。ですが私の妻になって事故死した。私のせいといえるでしょう」


「そんなことはない!」


 大きな声が応接室に響いた。ジスモンド様だった。険しい表情をしていたけれど、すぐに笑顔を浮かべる。

「キャロライン殿下もクラルティ公爵も、話がずれていますよ」

「確かに」

 とうなずいたリシャール様は私を見て、目が合うと微笑んだ。すぐにキャロライン殿下に向き直る。


「殿下。陛下にお伝え下さい。彼女とカヴェニャック家について、直接話したいのでお伺いします、と」

 ガタン、と音をたててジスモンド様が立ち上がった。驚愕の表情をしている。

「リシャール、都へ行くのか!」

「はい」

「大丈夫なのか!」

「叔父上、私はもう三十に近いのですよ。まだ二十歳にもなっていない令嬢を守るのは、大人の務めでしょう?」


 ジスモンド様は『そうだな』と応えると私を見て、

「ありがとう、ヴィオレッタ」と言った。


 どうして、私が感謝されるの?

 それにふたりの会話はどういう意味?

 もしかして、リシャール様は都が鬼門なの?


「あの、閣下」そう呼びかけると、笑顔のリシャール様が振り向いた。

「大丈夫、安心なさい。君の処遇には私が責任をもってあたるからな」


 そうではないのだけど――


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