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【ネトコン12受賞!Webtoon予定】身代わり婚は死の香り? 〜妻が次々に死ぬ死神公爵に嫁がされましたが、実家よりも幸せです  作者: 新 星緒


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5・1 名前

 朝食の席についたのは私、公爵、叔父に第二王子の四人だった。明るいところで見た王子は、さらさらの長い銀髪に緑色の瞳をした美青年だったけれど、鼻も手も痛々しくて血の気が引いた。


「不幸な事故だ。君が気に病むことはない」

 私のショックを察したのか、公爵が優しい言葉をかけてくれる。

「そもそも殿下とヴィルジニー・カヴェニャックが道理を通していれば、君が『死神』などと呼ばれる私のもとに追いやられることもなかったんだ。むしろ怒っていいくらいだ」

「殿下の軽率な行いが招いた結果なわけだしね」と叔父が引き継ぐ。「だとしても、気になってしまうものだろうが、そんなことよりも暴漢に反撃できた強さを誇るといいよ」


「暴漢じゃない」

 王子が反論する。けれど声は暗くて弱々しい。

「だがお前にどれほどの恐怖を与えたのかと考えると、噛まれたのも叩かれたのも仕方ないような気はする。痛くてたまらないが、これ以上の謝罪はいらない」


 ええと、つまり?

 王子はすごく根に持っているけど、許してくれるということかしら。

 公爵を見ると眉を寄せていて、叔父は笑いを噛み殺している。

 ここは――

「ご寛容に感謝いたします」

 との返事でいいだろうか。

 王子が鷹揚にうなずき、ほっとする。


「閣下はおみ足はいかがですか」

 公爵に尋ねると、『問題ない』との簡潔な答えが返ってきた。

「寝る前に僕がマッサージをしてあげたからね」と叔父が私に微笑みかけた。「結婚したら、ヴィオレッタがやってあげてくれ」

「叔父上。結婚は中止ですよ」と公爵が間髪入れずに言う。

「そうだった」と笑う叔父。


 公爵は私に視線を移して、 

「朝一番で、教会に式の中止を連絡した。安心しなさい」

 と教えてくれた。

 ならば私が四人目になることもない。私は誰にも殺されない。

 私の中に安堵が広がる。


「ありがとうございます、閣下。旅の最中に逃げるつもりだったのですけど、護衛の監視が厳しくてできず……。どうすれば閣下にご迷惑をおかけしないで結婚を回避できるか、ずっと考えていたのです。私が四人目にならなくて、閣下も私もようございました」


 公爵が目を見張る。

「そんなことを企んでいたのか。なんて無謀なんだ」

「君みたいな令嬢が、ひとり旅などできるはずがないだろう」と叔父まで責める。

「旅行記をたくさん読んでいますもの。それに背に腹は代えられないといいますでしょう?」

「王子の俺だって、幾度も危険な目に遭ったんだぞ」


 そんなに責めなくてもいいんじゃないかな。私にはほかに解決方法がなかったのだから、危険だろうがそれをやるしかなかったのに。


「……いや、それだけ思いつめていたのだな。君が無事に到着してよかった」

 そう言ったのは公爵で。彼こそ、こんなに優しいのに初対面のときはすこぶる冷淡だったのだから、この結婚を相当腹に据えかねていたのだと思う。


「ご迷惑をおかけするのは心苦しいですが、私も閣下にお会いできてよかったです」

 公爵はうなずいた。だけどすぐに目をそらす。

 私はまた、変なことを言ってしまったのだろうか。


 コホン、と咳払いをする公爵。

「その『閣下』というのは、やめてくれないか」

「わかりました。公爵様とお呼びしますね」

「いや、そうではなくて……」


 公爵は困ったような表情をしている。だけどほかに呼び方なんてある? 『公爵殿』とか?


「『リシャール』と呼んでやってくれ」と叔父。

「そんな、恐れ多い!」


 公爵が、見るからにしょぼんとした。

 あら? 叔父の言うとおり、本当に名前がよかったの?


「……では『リシャール様』と呼ばせていただきますね」


 公爵――ではなかったリシャール様の表情がパッと明るくなり、柔らかな笑みが浮かぶ。

「ああ、それがいい。私も、君をヴィオレッタと呼んでも構わないだろうか」 

「もちろんです」

「僕は『ジスモンド』だからね」

「俺は『セドリック様』がいい」


 叔父と王子が続けて主張する。


「わかりました。『ジスモンド様』、『セドリック様』」

「うん、いいね。君とようやく仲良くなれた感じがする」

 ジスモンド様は嬉しそうに言い、リシャール様はうなずく。

 そんなふうに思ってもらえるなんて。本当に、クラルティ邸にたどり着いたのは、私の人生で一番の幸運なのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[一言] うわ、本当に分からなくなった。 暴漢を撃退できた事を誇れだなんて励ましてくれるのは、良い人だけだよ!! 犯人じゃない事を切に願う!!!
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